2023 Fiscal Year Research-status Report
Research into many-body quantum phenomena characteristic of few-layer Dirac-electron systems
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21K03534
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
静谷 謙一 京都大学, 基礎物理学研究所, 名誉教授 (50154216)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 多体量子現象 / グラフェン / ディラック電子系 / 原子層 / 軌道ラムシフト / 準位交差 / 端電流 / 電子ホール接合 |
Outline of Annual Research Achievements |
ディラック電子が電荷を運ぶ炭素の原子層「グラフェン」は画期的な電子特性を示す。磁場中の積層グラフェンにはゼロ・エネルギー準位が複数現れ、軌道についても縮退するが、この縮退は価電子帯の多体の量子ゆらぎにより有意に解ける。研究代表者がその存在を指摘したこの「軌道ラムシフ ト」に焦点を当てて、積層ディラック電子系に現れる多彩な多体量子現象の探求することが本研究の主題となる。 一昨年度コロナ禍の下で online の国際集会(EP2DS/MSS)に参加して、最近の実験では 微小 SQUID 磁力計を用いて試料中の微視的電流を直接検出できるようになり、試料端に沿う永続電流が交互に逆流する2種類の流れとなって観測されていることを知りました。この事実に感銘を受けて 昨年度には量子ホール試料中の電流に焦点を当てた理論的考察を進めて、端電流は量子化された軌道運動に由来する反磁性成分と試料端のポテンシャルに沿ってドリフトする(常磁性)端ホール電流からなることを明確に特定し、その実空間での分布を導出した論文を発表しました。本年度の秋の物理学会で改めてその内容を報告しました。 今年度は通常の電子系にはないグラフェンに特有な電流分布の吟味に進みました。グラフェンはディラック電子に伴う電子と (その反粒子である) ホールからなる本質的に多体な量子系です。磁場中で外部からゲート電位を調整してグラフェン試料中に局所的な電位差 (試料端配置)を形成すると電子とホールの端状態が隣り合う特殊な接合が生じます。このような電子・ホール接合に沿って流れる永続端電流の様子を多体相互作用の効果も含めて考察しました。充填度と電位差の変化に伴い、電子とホールの電流の配置と分布が準位スペクトルと密接に連動して敏感に移動・変容する様子を特定しました。間もなく論文として発表いたします。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
量子ホール系に伴う電流については過去に多くの理論的な考察がなされましたが、実験による検証が困難であったため、長らく決着がつきませんでした。近年の実験技術の進歩に伴い微視的な電流が観測可能となったことで、今後原子層の物性についてより広範な視点からの実験と理論の進展が期待できると思います。目下、研究代表者の関心は量子ホール系の永続電流の理論的考察に向けられています。昨年度には、量子ホール系が電流を検出するプローブの導入に伴い(無限個の準位の回転を表す)W∞ (対称性をもつ) ゲージ理論の構造をもつことに着目して、特殊なゲージ変換を駆使してスペクトルや電流分布などを効率よく導出する系統的な理論的枠組を構成しました。過去に色力学(QCD)と超対称超場理論でゲージ不変な多重極展開を構築した経験が生かされました。今年度はこの多重極展開の枠組を幾何学的な観点から外場の全ての多重極は拡張することを試み、試行錯誤で数ヶ月を費やしました。いくつかの新しい知見は得られたものの、完全形にはまだ至っておりません。心残りですが、この課題には適宜再帰するつもりです。一方、ディラック電子系に特有な電子・ホール接合に伴う電流の考察は比較的順調に進みました。 今年度の夏にはグルノーブルで開かれた2次元電子系の国際会議(EP2DS-25/MSS-21)に出席してこの分野の最近の発展に接しました。特に、準位間や接合面における励起子や集団励起の話題を通して、接合面の量子現象への理論・実験両面からの関心の強さを実感しました。今後、積層グラフェンについても電子・ホール接合面に伴う永続電流や磁化を通して、その軌道ラムシフトの様子を吟味するという新たな問題意識を持ちました。
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Strategy for Future Research Activity |
今までの考察から、磁場中のグラフェン積層系における準位交差・混合という現象は多体量子効果を検出する (理論と実験の両面の) 格好の実験場であるとの認識を深めました。また、今年度の単層グラフェンにおける電子・ホール接合面に伴う永続電流の微視的な分布と配置の考察からは、このような接合は試料中に実現し共存する複数の準位の電子状態をポテンシャルの傾きで微視的に分離する機能があることを認識しました。引き続き今後は緩やかな試料端あるいは電子・ホール接合に伴う永続端電流に関する考察を、二層グラフェンの場合に拡張し、擬ゼロモードの混合の様子を電流分布や軌道磁化の変化とも連携させて詳しく調べたいと思います。さらに、電子・ホール接合に伴う励起子や準位間集団励起の可能性なども検討したいと思います。
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Causes of Carryover |
当初令和3年から令和5年に至る3年間の研究を計画していましたが、この期間の大半にわたりコロナウイルスが世界的に蔓延したために、国際会議や研究集会へはオンラインによる参加や近隣の会場への参加に限られました。その結果、研究交流のための旅費の大半が未使用となり、私の研究にも少なからぬ遅滞が生じるました。そこで、改めて研究計画を見直すとともに、今年度後半に研究費補助期間の1年延長を願い出て、幸い承認をいただきました。令和6年度には多くの研究集会が対面形式に復帰すると思われますので、特に研究交流・情報収集のために旅費を有効に使用したいと思います。
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