2021 Fiscal Year Research-status Report
Existence form of few-body kaonic nuclear systems revealed from their strcture and reaction
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21K03544
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
土手 昭伸 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (90450361)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | K中間子原子核 / 高密度状態 / 量子色力学(QCD) / 少数系 / 精密計算 / 共鳴状態 / チャネル結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子核は陽子と中性子(あわせて核子)からできているが、本課題では反K中間子という粒子を含む原子核(K中間子原子核;K原子核)が研究対象である。核子はアップクォーク、ダウンクォークからできているのに対して、反K中間子はクォークと反クォークからなり、クォークはストレンジクォークというものである。K原子核は、このように核子とは全く違う粒子、反K中間子を持つ、新しいタイプの原子核である。
この反K中間子と核子との間にはとても強い引力が働く。そのため、原子核内部に入った反K中間子の周りに核子が集まり、密度の高い状態が形成される可能性が昔から指摘されている。核子の間には短距離でとても強い斥力が働くため、一般に原子核の密度を上げることは困難であるが、K原子核は高密度状態になる可能性がある。こういった高密度状態では、相互作用や粒子の質量が変化するといったことが、原子核物理にとって究極の基礎理論である量子色力学(QCD)によって予言されている。また宇宙に存在する中性子星は内部が高密度になった巨大な原子核である。地上実験で生成・測定ができるK原子核の研究によって、QCDや中性子星の理解が進むはずである。
このK原子核の性質を解明するため、反K中間子K-と2つの陽子pからなる、最も基本的な3体系「K-pp」の研究が理論・実験両面で進んでいる。私はK原子核にとって重要な性質(共鳴状態・結合チャネル状態)を正しく扱える計算手法を用い、精密にK原子核を調べている。反K中間子と核子との間に働く力は研究を進める上で一つの鍵であるが、この力は理論的には反K中間子と核子のエネルギーに依存し取り扱いが難しい。そこでこれを扱いやすい形式(運動量依存型)にして、現在私の計算手法に乗せてK-ppを調べている。同じくこの3体系を調べている実験グループと議論を行ったところ、束縛エネルギーは実験値と無矛盾なものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
K原子核研究において、一つの鍵は反K中間子と核子との間に働く相互作用である。理論研究の立場からすれば、理論に基づいた相互作用を使うべきである。反K中間子の場合はカイラルSU(3)理論によって核子との間に働く相互作用が導出される。この「カイラルポテンシャル」はこれまでの私の研究でも使用してきたが、反K中間子と核子のエネルギーに依存するため取り扱いが厄介である。その上K原子核のような多体系の研究に使用する場合には、そのエネルギーの決め方によって不可避な不定性が生じてしまう。そこでこのエネルギー依存性の部分を運動量演算子で表現することで、これらの困難は回避されると期待できる。そこでこれまで使用していたカイラルポテンシャルを運動量演算子で表現し直し、それを私の方法(結合チャネル複素スケーリング法)の計算コードの中に組み込んだ。今のところ尤もらしい結果を得ているが、まだチェックすべきことがあり、詳細を分析しているところである。
しかし研究以外の業務が予想外に複数重なってしまったため、進捗状況は遅れ気味と言わざるを得ない。具体的には、日本物理学会の業務を2つ同時に行うことになり、また所属機関で自身がオーガナイズする研究会も行うことになった。そのため研究に使える時間が少なくなってしまった。また多分に個人的事情であるが、コロナのため子供の小学校や幼稚園が休校・休園となることが多々あり、いつも以上に子供の世話に時間がとられてしまった。(但し、これは同じような人が全国に多くいるので、言い訳にはならないと自分でもそう思っている。)
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」及び「進捗状況」のところで述べたように、反K中間子と核子の間に働く力を扱いやすい形式(運動量依存型)にし、K-ppの計算を行っている。現段階では、これは非相対論的な運動学での計算である。反K中間子はまだよいのだが、反K中間子と核子はある瞬間には同じ量子数を持つ、π中間子とハイペロンと呼ばれる粒子に変化する。(結合チャネルの効果。)この時に現れるπ中間子の質量は、核子の9分の1程度と非常に軽く、相対論的な効果が重要となってくる。そこでK-ppについて、より確かなことを言うためには、運動学を相対論的なものにした、準相対論的な計算(俗にいうセミレラ計算)を行うことにする。
先に実験結果と比べ束縛エネルギーは無矛盾なものであったと述べたが、崩壊幅は大きく違っている。運動学を相対論的に変えることは、崩壊幅にも影響を与える可能性があるので、この点、どう改善されるかも調べたい。
さらには昨今、実験グループは4体系(Kーppn)の実験を計画していることもあるので、こちらも4体系の計算を進めたい。
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Causes of Carryover |
コロナの影響のため、現地参加を予定していた日本物理学会大会がオンライン開催になるなど、研究会の大半がオンライン開催になってしまった。研究会以外のミーティングも安全を期して全てオンラインで行った。また学会参加登録費や現地開催になった研究会の旅費も、所属機関の予算がコロナの影響で余っており、そちらから支払うことにした。(所属機関の予算は繰越ができないため。)このような理由で、2021年度は本予算を全く使用することがなかった。2022年度にはコロナも良くなり、研究会の現地開催も増えると期待される。研究会やミーティングの際には本予算を使用していく予定である。
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Research Products
(2 results)