2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K03554
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
大木 洋 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (50596939)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 格子理論 / 素粒子現象論 / 宇宙起源 / モンテカルロシミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主要課題の一つである格子理論のテンソルネットワーク表示を用いた非摂動計算に関して、 本年度はテンソルネットワーク繰り込み群における特異値分解における確率論的手法を取り入れたテンソルネットワーク繰り込み群(TRG)の手法についての再考察を行い、これまでの研究成果をまとめた論文を執筆し発表した。この確率論的手法を取り入れた手法では、系統誤差を統計揺らぎに置き換えることが出来るため, 通常のTRGに比べ系統誤差が少なく高精度で計算出来る。しかし、ノイズベクトルの多重使用に伴う付加的な系統誤差が存在することがこの手法の欠点であるが、その誤差はノイズベクトルの性質によって系統的に制御可能であるため、スケーリング則がわかっていないような複雑な模型にも応用出来る可能性がある。本研究成果は査読付き学術論文All-mode renormalization for tensor network with stochastic noise, Phys.Rev.D 107 (2023) 11として出版された。 また、本研究のもう一つの主要な課題であるCP非保存の起源の解明に関する素粒子論的研究に関して、通常のCP変換とは異なる粒子と別の粒子間の変換であるCP-like変換といわれる新しい対称性を持った理論における物質反物質非対称性の可能性や連続群に対するCP-like対称性のある模型の考察などを行い、従来考えられていたより広いタイプの内部対称性を持つ理論にCP-like対称性が存在できることを明らかにした。これらのCP-like対称性の一般的性質についての研究を論文としてまとめ、現在学術論文として投稿している段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宇宙の相転移現象の解明には非摂動ダイナミクスを含めた計算が重要であり、非摂動ダイナミクスを比較的効率的に計算できる手法の一つであるテンソルネットワーク法は近年様々な方面から精力的に調べられている。本研究では格子計算で用いられてきた確率過程法を組み合わせることで、従来とは全く異なるアプローチによるテンソル繰り込み群の計算手法を提唱することに成功した。これまでのテンソルネットワーク繰り込み群に関する研究の蓄積と新たな知見を活かして、今後は物質反物質非対称性の起源に起因する真空の相転移現象に関する非摂動計算への研究に進展させていく予定である。 また物質反物質非対称性と密接に関連するCP(-like)対称性の自発的破れと真空構造の関係についての研究にも同時に進めることが出来ているため、宇宙の起源の謎の解明に関する現在進めている幾つかの研究課題について興味深い成果が得られる可能性が高まっている。
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Strategy for Future Research Activity |
CP対称性の破れの起源と物質優勢宇宙の起源の解明に関する素粒子論的研究を進め、大統一理論からの導出や高エネルギー加速器実験結果との整合性等の現象論的観点からの模型構築を研究し、素粒子標準模型におけるこれら現象論的諸問題の解決に向けたシナリオの提唱を行うことで、宇宙の進化の謎に関連する新たな可能性を模索する。同時にもう一つの重要な宇宙の謎の一つである暗黒物質の正体に関して、CP対称性の破れとの関連については、物質優勢宇宙と暗黒物質の起源の両方を同時に考察することで、従来の素粒子宇宙論的なモデルでは考えられていなかった新たな宇宙進化のシナリオが得られる可能性があると考えている。これまでのCP(-like)対称性に関する研究で培った知見を活かし、素粒子標準模型における物質優勢宇宙、暗黒物質、初期宇宙の真空相転移のシナリオの解明とその定量的な評価を行う研究を進める。
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Causes of Carryover |
一昨年度までの海外出張の中止等による未使用額があるため、次年度使用額が生じている。テンソルネットワーク繰り込みの数値計算に関して引き続き計算資源とデータ管理用のディスクなどの必要性を具体的な考慮しながら, 次年度以降の計算機の研究機器の拡充を行なっていく予定である。その他、国際研究会への出席等の海外出張による研究成果発表等にも使用する予定である。
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