2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K03559
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
平松 尚志 立教大学, 理学部, 助教 (50456175)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 修正重力理論 / 宇宙マイクロ波背景放射 / 宇宙紐 / モノポール |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、修正重力理論の一種であり最も広い理論空間を持つ縮退高階微分スカラー・テンソル(DHOST)理論の、ボルツマンソルバーへの実装を完了しました。これを用い、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測データに基づく、DHOST 理論の理論パラメータへの制限を行いました。本研究で開発したボルツマンソルバーは、世界で公開されているコードの中で、最も一般的な重力理論を扱えるソルバーとなっています。また、これを応用し、一般相対論を拡張したにも関わらず、一般相対論と同じく2つの自由度しか持たない特殊なスカラー・テンソル理論(2DoF理論)も実装し、そのモデルパラメータへの制限も行いました。それぞれの論文は現在執筆中で、近日中に公開される予定です。 宇宙論的位相欠陥に関しては、ダークセクターで生成されるモノポールが現実世界での宇宙紐の構造に影響を与え、局所的にはモノポールに見え遠方からは宇宙紐に見える特殊な宇宙紐に関する研究を行いました。単純な大統一理論ではモノポールの大量生成が問題となり、これを回避するためにインフレーション機構が必要となります。しかし、宇宙紐に閉じ込められたモノポールであれば、現実の宇宙に対する影響を抑えることができ、ある程度の存在が許容されます。このため、大統一理論やその有効理論において、理論の許容される範囲が広がる可能性があります。 また、ここで用いた申請者自身の開発による場の理論的シミュレーションコード自体の開発も進め、京都大学基礎物理学研究所のスーパーコンピュータ Yukawa-21 上での運用を想定し、OpenMP と MPI を用いたハイブリッド並列化を行いました。その結果、Yukawa-21 上でのベンチマークテストで、おおよそ想定した通りの計算時間と精度を達成していることを確認しました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、修正重力理論に対する観測からの制限を与える研究に一定の目処が付き、同時に、場の理論的シミュレーションコードの開発も想定通りの段階まで進みました。申請当初の予定では 2DoF 理論に対する研究は想定していませんでしたが、DHOST 理論をボルツマンソルバーへ実装するノウハウがすでにあったため、同様の方針で新しい研究結果を創出することができました。CMB の観測データを用いて実際にパラメータの制限を行う際にマルコフ連鎖モンテカルロシミュレーションを行いましたが、このコードの作成と調整に若干手間取り、論文執筆が 2022 年度へずれ込んでしまいました。しかし、全研究期間を通してみれば深刻な事態とは言えないので、本研究は概ね順調に進展していると考えています。
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Strategy for Future Research Activity |
CMB の観測データから修正重力理論に対して制限を行う研究は一定の成果を上げました。今後は、場の理論的シミュレーションコードを用いた初期宇宙起源の背景重力波の研究へと重心を移していきます。シミュレーションコードは、前年度末までにハイブリッド並列化を完了し、基盤となる部分の開発を終えることができたため、現在は、次のステップとして具体的な理論モデルを実装する段階にあります。特に今年度は、大統一理論における高いゲージ群の対称性の破れで生成される、テクスチャと呼ばれる宇宙論的位相欠陥からの背景重力波の生成に関する研究を進めていく予定です。具体的には、非可換群の中で最も小さい SU(2) 群の対称性が完全に破れることを考え、ゲージ場を伴うテクスチャの生成シミュレーションを行います。このテクスチャはゲージ変換で消えてしまうため、非自明な静的解は存在しません。しかし、動的過程において非自明な挙動が現れることが予想され、背景重力波の観測から他の対称性の破れと区別することが可能であるかを探ることが本研究の目的の一つとなります。また、O(4) 対称性が O(3) へと破れる過程でも同様のテクスチャが現れますが、こちらは非自明な構造を持つことが知られています。このように、考える対称性の破れによってテクスチャの性質が異なるため、テクスチャ固有のシグナルを背景重力波の観測を通して得られることができるかどうか、またその定量的な評価を行うことを当面の目的とします。 シミュレーションコードの開発がこれから本格化しますが、開発には本研究費で購入予定のワークステーションを用いる予定です。また、コードの運用には非常に大きいメモリを必要とするため、京都大学基礎物理学研究所のスーパーコンピュータ Yukawa-21 を用いて研究を進めていくことを想定しています。
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Causes of Carryover |
参加を予定した国内外での研究会や学会のほとんどが、コロナウィルスの蔓延によりオンライン開催となったことで旅費の支出が大幅に減りました。また世界的な半導体不足の影響を受け、2021年度に購入予定だったワークステーションの調達が難しくなったことにより、購入を次年度へ延期しました。これらの理由から、2021年度に使用予定だった研究費を2022年度以降へ繰り越すことになりました。コロナウィルスに対する社会情勢が変化しつつあり、現地開催の研究会が徐々に増えていることから、2022年度は当初の予定に近い旅費の支出が見込まれます。また、ワークステーションの購入も2022年度後半を目処に行う予定です。
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