2023 Fiscal Year Research-status Report
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21K03559
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
平松 尚志 立教大学, 理学部, 助教 (50456175)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 宇宙ひも / ドメインウォール / 宇宙マイクロ波背景放射 / 背景重力波 / 修正重力理論 / 複屈折 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、宇宙論的位相欠陥に関する論文を3件、U-DHOST 理論と呼ばれる拡張された重力理論に関する論文を1件執筆しました。 1つ目の論文では、大統一理論を想定した複数(ここでは2つ)スカラー場の真空の相転移に伴って生成される、宇宙紐とドメインウォールの結合系の真空の構造の解析を行いました。ここで生成されるドメインウォールは、宇宙紐が横方向に伸びたような構造になっており、その両端に別の宇宙紐が結合するような構造を取ります。この系の真空のトポロジーはトーラスノットのような構造になっており、さらに、2つのスカラー場の真空期待値の大小によって、その構造も変化することを突き止めました。 2つ目の論文では、宇宙紐に別のスカラー場が凝縮してできる超電導宇宙紐の衝突シミュレーションを行い、衝突後の超電導宇宙紐の形態を衝突速度と衝突角度によって分類しました。超電導宇宙紐上を流れる超電導電流の存在により、Abelian Higgs 宇宙紐とは大きく異なり、衝突角度と衝突速度によって、衝突後の状態が 1)通常の組み換え、2)束縛状態の形成、3)素通り、4)宇宙紐の崩壊、の4つに分類できることを示し、最終状態に関する相図を作成しました。 3つ目の論文では、真空の相転移に伴って生成されたドメインウォールが作るスカラー値の非一様性によって生まれる宇宙論的複屈折を定量的に評価しました。そして、将来の宇宙マイクロ波背景放射での観測、およびドメインウォールの生成で作られる背景重力波の観測を通して、複屈折角度についてどの程度制限を課すことができるかについて議論しました。 4つ目の論文では、スカラー自由度を持つ極めて一般化された拡張重力理論として知られるU-DHOST 理論について、宇宙マイクロ波背景放射の観測で強い制限が課せられる可能性があることを示しました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
テクスチャを含む、宇宙論的位相欠陥のネットワークシミュレーションに用いる場の理論的シミュレーションコードの開発は、ほぼ完了しました。また、宇宙論的複屈折の研究では、宇宙論的位相欠陥の存在が宇宙マイクロ波背景放射に与える影響を定量的に評価しましたが、このノウハウを生かし、テクスチャが存在する場合にも同様の研究が可能であることがわかりました。そこで、場の理論的シミュレーションコードの出力を、宇宙マイクロ波背景放射のボルツマンソルバーの入力としてつなげ、2つのコードを一体的に運用する方向で検討を進めています。このように、新たに創生された研究により、本研究の本来の目的をより進める結果になったということもあり、本研究は概ね順調に進展しているものと考えています。
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Strategy for Future Research Activity |
場の理論的シミュレーションコードは、スーパーコンピュータでの運用を想定して分散メモリ並列化を進めます。その上で、SU(2) テクスチャと O(4) テクスチャの違いを定量化する手段を開発し、テクスチャの消滅過程における重力波、および宇宙論的マイクロ波背景放射への影響について考えます。そして、LISA や DECIGO 等の重力波観測、NANOGrav に代表されるパルサータイミングの観測、さらに LiteBIRD や CMB-S4 等の宇宙マイクロ波背景放射の観測計画を想定して、テクスチャの宇宙論的意義について研究を進めていきます。 観測データから理論のモデルパラメータを制限するためにマルコフ連鎖モンテカルロシミュレーションを用いていますが、これまでは宇宙マイクロ波背景放射のデータのみを使用してきました。今後は、大規模銀河サーベイである BOSS のデータも考慮し、高赤方偏移だけでなく、低赤方偏移の情報も含めてより堅牢なパラメータ推定を行っていく予定です。
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Causes of Carryover |
世界的な半導体価格の高騰と極端な円安の影響を受け、当初購入予定であったワークステーションを再検討し、購入予定価格が変化しました。また、コロナウィルスに対する社会情勢の変化によって研究会等の開催形態が大きく変化したため、多くの研究会等がオンラインでの開催に切り替わりました。これら世界規模で影響が広がった事象は申請当初には予期できず、結果的に次年度使用額が生じました。2024年度は多くの研究会がほぼ通常通り対面で行われることが見込まれ、次年度使用額分の一部は出張旅費に使用する予定です。また、残りは2023年度に購入したワークステーションで計算したシミュレーションデータの保持のため、ハードディスクの購入に充てる予定です。
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