2021 Fiscal Year Research-status Report
Study on alpha emission in medium-heavy nuclei based on comprehensive nuclear models
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21K03561
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
伊藤 誠 関西大学, システム理工学部, 教授 (30396600)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | α崩壊 / 核変換 / αクラスター模型 / 殻模型 / 平均場模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、質量数が数十から100程度の原子核に放射線を照射して誘発される「人工α崩壊」のメカニズムを解明することである。原子核の基底状態、低励起状態は「殻模型」、「平均場模型」と呼ばれる独立粒子描像に基づいた模型により記述される。しかしながら、最近の研究によって人工α崩壊の低エネルギー領域の強度分布は、α粒子の塊(αクラスター)の核内での形成確率が増大していることが指摘されている。 これまでのα崩壊の記述には、核内にα粒子をアプリオリに仮定する「αクラスター模型」が成功を収めてきた。本研究では、このαクラスター模型を拡張し、殻模型、平均場模型の要素までを包括した計算・分析を行うことである。具体的には、αクラスター模型を主軸としつつ、α崩壊の始状態と終状態に対して、殻模型と平均場模型に基づくα粒子の崩れの効果を取り入れる。 α崩壊前の始状態にある原子核は基底状態にあり、殻模型構造が発現している。そのため、殻模型構造内にα粒子が形成される振幅を評価する必要がある。一方、α崩壊する終状態には、α粒子が残留核に再び融合し複合核状態を形成する過程が存在し、その過程に起因するエネルギー幅が存在する。始状態においてαクラスターが形成される確率振幅は、殻模型―αクラスター模型の波動関数の重なり積分(オーバーラップ積分)により評価する。一方、終状態に対するエネルギー幅の効果は、平均場模型による融合反応のシミュレーションから評価する。これらの効果を取り入れてα崩壊強度のエネルギー分布の計算を行い、実験データとの比較および予言を行う。 2021年度は、オーバーラップ計算の定式化を行い、実際に二中性子クラスター等を仮定し、殻模型状態内に発現する確率振幅を評価した。一方、融合反応のエネルギー幅については、中性子の融合反応を試験的に考え、光学模型に基づいた透過率の方法により評価することを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で最も要となる計算手法は、①殻模型とαクラスター模型のオーバーラップ計算、②α粒子の融合反応にともなるエネルギー幅(融合幅)の評価、の2点である。①のオーバーラップ計算については、これまでにもいくつかの計算例が存在していたが、それらは適用範囲が調和振動子型の波動関数に限定されていた。これに対し、我々はフーリエ変換に基づいた新しい計算手法を定式化し、調和振動子以外の波動関数でも計算が可能になった。この手法を重い原子核+2中性子(n)系に適用し、殻模型状態(原子核+n+n)と二中性子クラスター状態(原子核+2n)のオーバーラップ計算を行ったところ、2中性子が特定の軌道を占有する場合に2中性子クラスターの形成振幅が増大することが確認された。更に同様な傾向がαクラスターにおいても成り立つことが確認された。 一方、②に挙げたα粒子融合反応に対するエネルギー幅(融合幅)の評価については、先行研究が存在しないため、研究例が多い中性子の融合反応(中性子+原子核)をとりあげ、それに対する融合幅の評価を行った。ここで用いた計算手法は、平均場理論によるものではなく、光学模型によるもので、中性子が原子核内に透過する確率(透過率)を算出し、それを融合幅に変換する方法である。今年度は中性子+カルシウム40系に対してこの手法を適用し、実験データとの非常に良い対応結果を得た。ここで得た結果をα粒子+原子核系に拡張することにより、α粒子の融合幅を評価することが可能である。最終的には平均場理論によって融合幅を評価することが重要であるが、その結果の妥当性を検証する上でも、光学模型による融合幅の評価を行っておくことは非常に有意義である。 更に、強度関数計算の基本フレームワークである吸収境界条件法に関する技術開発、強度関数の実験的分析に有益なバックグラウンドの評価についても研究を平行して進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで定式化したオーバーラップ計算と融合幅計算を現実的な系に適用し、実験データとの比較、予測を行っていくことが肝要である。現在のオーバーラップ計算では、殻模型状態は、最も単純な配位が仮定されているが、今後は単純な配位を超えた配位混合の計算を行って、α粒子の形成振幅をより現実的に評価することが必要である。一方、融合幅の計算に関しては、現在進めている光学模型による評価と並列して、平均場理論による計算も行い、その妥当性を検証することが重要であろう。これらを反映して、現在考えられる研究の推進方策として2つ項目が挙げられる。①オーバーラップ計算+光学模型による崩壊幅による強度関数の分析②時間依存平均場理論による融合幅の評価。 ①については、αクラスターの典型例であるα+16O(=20Ne)、α+40Ca(=44Ti)の系に注目し、そのα崩壊の強度関数を計算することである。純粋なαクラスター模型をこれらの系に適用した結果については、既に計算を行っているため、オーバーラップの結果と崩壊幅の効果を組み入れていくことが今後の目標である。現在は44Tiの計算に着手している。20Neについては質量数が小さいため、そのことを考慮して現在計算を準備中である。 ②については、融合反応の時間計測が必要となるため、時間依存平均場理論を専門とする研究者との共同研究が必要となるため、現在、その準備を進めている段階である。プログラム引き渡しに伴うチュートリアル等の実質的な作業が必要となるため、対面での作業を進めることが望ましい状況である。しかしながら、現在コロナ禍であるため対面での作業が少し困難な状況である。コロナ禍の終息をしばらく待つ必要があるが、もしそれが無理な場合はオンラインなどでプログラムの打ち合わせを行うことになると思われる。これについては、全体の進捗状況を見て進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
予定していた国際学会が軒並みコロナ禍のため中止となり、国際学会への大学院生派遣、海外出張をすることができなかった。そのため、次年度使用額が生じた。2022年度の使用計画としては、主に国内・国際学会での成果報告、および大学院生の派遣に必要な旅費や諸経費等に使用する予定である。現在考えている参加学会としては、9月に岡山理科大学で開催予定の日本物理学会2022年秋季大会、10月にベトナムのハノイで開催予定のOMEG16等である。
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