2021 Fiscal Year Research-status Report
断熱的時間依存平均場理論に基づく大振幅四重極集団ダイナミクスの解明
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21K03563
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
佐藤 弘一 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 講師 (10610991)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 原子核構造 / 大振幅集団運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
断熱展開の2次の集団座標演算子を入れた断熱的自己無撞着集団座標(ASCC)理論についての理論的・数値的解析を行った。ASCC理論は原子核の大振幅集団運動の微視的理論である。先行研究では、従来の理論で取り入れられてこなかった断熱展開(集団運動量展開)の2次の集団座標演算子が、集団運動に対する運動方程式と慣性質量に寄与しうることを示したが、ここでは2次の集団座標演算子の慣性質量への影響についての詳しい解析を行った。その結果、超流動性の有無によって2次の演算子の効き方に大きな違いがあることを見出した。この理論では断熱展開の2次のオーダーの項まで考慮するが、従来の断熱展開に基づく集団運動の理論で考慮されていなかった2次の正準変数条件を考慮すると、超流動性のない場合には2次の集団座標演算子は慣性質量には直接寄与せず、運動方程式を通してのみ状態ベクトルに寄与するのに対し、超流動状態の場合には、2次の集団座標演算子は運動方程式のみならず、慣性質量にも直接寄与することを見出した。従って、超流動性のない場合には、2次の集団演算子は状態ベクトルへの影響を通してのみ、間接的に慣性質量に寄与する。 また、具体的にこの理論を超流動性のない3準位Lipkin模型に適用して、解析・検証も行った。この模型における状態ベクトルは2つの角度変数で指定され、実質2次元の系であるから、これは2次元の空間から1次元の集団的自由度を抜き出すという問題に帰着する。2次の集団演算子を入れない従来のASCC理論の方程式では、集団経路上の各点で集団演算子を求めるための固有値方程式を解き、得られた2つの固有モードから集団的モードとそれに属する集団演算子を決定するが、2次の集団演算子を入れた場合は、従来の倍の4つの固有モードが現れ、その中から集団的なモードを選ぶ必要があること、この構造は一般の系でも現れることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、2次の集団座標演算子を入れたASCC理論を超流動性のない3準位模型に適用した場合の数値的解析を行っている。これまでのところ、ASCC方程式を簡単化した局所乱雑位相近似(局所RPA)法に2次の集団座標演算子を入れた方程式を解くことで、2次元の空間から1次元の集団的自由度を抽出することに成功している。局所RPA法はASCC理論を簡単化した理論で、自己無撞着性は破れているものの計算量が大幅に削減された実用的方法である。自己無撞着性を保った完全なASCC理論の方程式系を数値的に解くという課題については、現在もまだ進行中であるが、2次の集団座標演算子を入れた局所RPA法の拡張という一定の成果があった。 また、ASCC理論の基本方程式系では方程式を閉じさせるために、moving-frame Hartree-Fock方程式とmoving-frame RPA方程式と呼ばれる運動方程式に加えて、正準変数条件という、集団変数が正準変数であるための条件を集団演算子に課す必要がある。この正準変数条件として1次の集団座標演算子と2次の集団座標演算子の交換子についての条件を課すと、超流動性のない場合には2次の集団座標演算子は慣性質量へは直接寄与しないという理論的に重要な発見があった。 以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、断熱展開の2次の集団座標演算子を入れたASCC方程式を超流動性のない3準位Lipkin模型に適用し、2次元空間から1次元の集団的自由度を自己無撞着に抽出するという課題に引き続き取り組む。得られた集団経路上で解いたシュレディンガー方程式の解と3準位Lipkin模型の解析解とを比較し、理論の妥当性を検証するとともに、より現実的な系にも適用可能な解法、数値的アルゴリズムの開発に取り組む。 その後、超流動性を入れた場合のASCC理論による集団ダイナミクスの記述に取り掛かる。従来の(2次の集団演算子を含まない)ASCC法では超流動性を考慮すると、方程式のもつ近似的なゲージ対称性のために、数値計算上の不安定性が生じることが知られている。ここでは、その不安定性を取り除くための処方について検討するとともに、2次の集団演算子を入れた場合の数値的アルゴリズムの開発に取り組む。 また、これまでの研究で、超流動性を考慮した場合に2次の集団座標演算子の慣性質量への寄与が、運動方程式の下で粒子数演算子と1次の集団座標演算子の二重交換子によって書き換えられることを見出した。この表式を用いれば、2次の集団演算子を入れた(従来の方程式より複雑な)方程式系を解かずとも、より簡単で計算量の少ない従来のASCC方程式を解いて得られた1次の集団座標演算子を用いて、近似的に2次の集団座標演算子の効果(断熱展開の高次効果)を取り入れられる可能性がある。特に、ASCC理論を簡単化した局所準粒子RPA法についても、2次の集団座標演算子からの寄与に対応する表式が既に得られているので、従来のASCC方程式および局所準粒子RPA方程式に、この近似的に2次の集団座標演算子の効果を取り込む処方を適用し、集団ダイナミクスの記述への有効性を検証する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、国内外の学会や国内での研究打ち合わせ・情報交換のために、数回ほど出張を行う計画であり、そのための旅費として当該年度の経費を見積り、申請をしていた。しかし、新型コロナウィルスの影響のため、研究会・学会が延期もしくはオンライン開催となり、また、県をまたいでの出張を自粛せざるを得ない状況になったため、想定よりも支出が少なくなり、次年度使用額が生じた。 使用計画であるがコロナ禍の状況が改善し、国内外の研究会に現地参加できるようになれば、研究会参加のための旅費や参加費として使用する計画である。また、物品費の一部としてオンライン会議のためのカメラや会議システムの機器などの購入にも使用する計画である。
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