2021 Fiscal Year Research-status Report
Testing general relativity by gravitational wave data analysis of black hole quasinormal modes
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21K03582
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
中野 寛之 龍谷大学, 法学部, 准教授 (80649989)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 重力波物理学 / 重力波 / ブラックホール / 一般相対性理論 / 重力波天文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「ブラックホール準固有振動」と呼ばれるブラックホールが形成された際に放射される「リングダウン(減衰振動)重力波」に注目する。これは、アインシュタインの一般相対性理論においては、ブラックホールの質量とスピンで記述されるシンプルな重力波である。本研究の学術的「問い」として、「ブラックホール」と呼ばれているものは、本当に一般相対性理論で予言されるものなのか?をあげる。この問いに答えるために、リングダウン重力波のより良いデータ解析法を開発し、連星合体後に生じた天体の情報を抽出することにより、一般相対性理論を検証する。 上記の目的のために必要なものの1つとして、精密な理論重力波波形の予測が挙げられる。連星ブラックホールの数値相対論シミュレーションは日々進歩しているが、数値的に生成された時空に対して、重力波を抽出するために適切な座標系はどうあるべきかを、本年度は議論した。一般相対性理論には一般座標変換の自由度があるため、このような研究が必要となる。我々は数値的に実装が容易で、適切に重力波を抽出することが可能な座標基底を提案した。 地上重力波望遠鏡でのリングダウン重力波の観測は、これまでは基音(fundamental tone)のみに着目して行われてきた。近年、倍音(overtone)を用いることにより、その観測精度の向上が提案されている。しかし、リングダウン重力波から倍音を理論的に抽出することを考える際に、数値相対論波形を用いた場合には精度の問題が生じる。そこで、本研究において重力波データ解析により近い研究として、ブラックホール摂動論を用いて、現在公に利用できる数値相対論波形よりも高精度の重力波波形を生成し、ブラックホール準固有振動の基音・複数の倍音を正規直交化することによる解析方法を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
地上重力波望遠鏡(aLIGO, advVirgo)の第3次観測(O3)が終了してから2年が過ぎた。この間、これまでに得られた観測データを用いた、物理学的・天文学的な観点からの様々な解析が進んでいる。その中で、一般相対性理論の検証に直結するリングダウン重力波からブラックホール準固有振動の基音・複数の倍音をより良く抽出できると期待される方法を(Norichika Sago, Soichiro Isoyama, Hiroyuki Nakano, Universe, 7, 357 (2021))において提案することができた。この方法は、現在の観測精度に対しては過剰性能であると考えられるが、今後の第4次観測(O4)やさらに将来の観測で威力を発揮すると考えている。一方で、本研究の共同研究者とは独立な研究者たちが、当該分野の研究に参入する状況が生じており、リングダウン重力波の分野の活性化を期待することができる。 また、基礎的な研究ではあるが、連星ブラックホールの数値相対論シミュレーションにおける重力波波形の抽出に関して(Nicole Rosato, Hiroyuki Nakano, Carlos O. Lousto, Phys. Rev. D 104, 044047 (2021))において議論した。重力波が観測されてから、理論重力波波形としての数値相対論波形の需要は、ますます高まっている。高次元パラメータ領域(ブラックホールの質量、スピン)での大量の波形生成が求められることから、効率の良さという観点が重要になっており、精度向上もまた必要である。今後、本研究が活用されることになる。こちらもまた、重力波の将来観測を見据えた研究である。
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Strategy for Future Research Activity |
地上重力波望遠鏡(aLIGO, advVirgo)の第3次観測(O3)のデータに対して、基音・複数の倍音を抽出する重力波データ解析は既に行われているが、現在はシンプルなフィッティングが用いられている。次年度以降、我々のブラックホール準固有振動の基音・複数の倍音を抽出する方法を適用することを考える。本年度の解析においては、ブラックホール摂動論を用いて生成された波形を用いた。つまり、ノイズ無しの理想的な条件のもと、時間領域で重力波波形を議論したことに対応する。しかし、実データ解析では重力波望遠鏡のノイズを考慮する必要がある。また、標準的な手法である理論波形とデータの相関を考えるマッチドフィルタリング(matched filtering)法を用いる場合には、周波数領域での解析となる。我々の提案した方法が、これらの状況で有効であるかどうかは定かでないため、研究協力者と共に議論を進め、問題点を浮き彫りにしていく。 一方で、地上重力波望遠鏡の観測帯域において、リングダウン重力波の信号雑音強度比への寄与が小さい、質量の差の大きな(質量比が小さい)連星系からの重力波も重力波望遠鏡により観測されている。このような連星系からは、連星系のエネルギーが減少することに伴い、軌道間距離が徐々に短くなる際に放射される「インスパイラル重力波」の観測が重要な部分を占めている。また、重力波観測によって同定された様々な質量比の連星系の起源もまた興味深いものであり研究対象となり得る。これらの研究は、「ブラックホール」「一般相対性理論の検証」と密接に結びつくものであり、本研究課題の中で推進していく必要性があるだろう。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、多くの学会・研究会がオンライン開催され、旅費として使用することができなかった。翌年度分と合わせて、旅費としてだけでなくオンライン環境の整備を行う。
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Remarks |
KAGRAコラボレーションのauthorshipを有しているが、The LIGO Scientific Collaboration, the Virgo Collaboration, the KAGRA Collaborationの論文は【雑誌論文】の業績に含めていない。
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Research Products
(14 results)