2022 Fiscal Year Research-status Report
Research on the galactic cosmic-ray acceleration and propagation by the direct measurement of the cosmic-ray nuclei
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21K03592
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
赤池 陽水 早稲田大学, 理工学術院, 主任研究員(研究院准教授) (70726744)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 銀河宇宙線 / 衝撃波加速 / 銀河内伝播 / 高エネルギー宇宙線 / 二次核一次核比 / 国際宇宙ステーション / カロリメータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では銀河宇宙線の加速・伝播機構の解明のため、国際宇宙ステーションに搭載した宇宙線観測機CALETのデータから宇宙線各成分の精密な測定を進めている。CALETは2015年10月の観測開始以来、7年以上に渡り安定的な観測を継続しており、観測当初の検出性能を維持したまま順調にデータを蓄積している。本年度は、代表的な二次宇宙線であるホウ素のエネルギースペクトルとホウ素/炭素比(B/C比)を3.8TeV/nまで測定した結果を発表した。さらに、宇宙線の主要な成分である陽子とヘリウムのエネルギースペクトルをそれぞれ60TeV, 250TeVまで測定した結果を発表した。 ホウ素は、通常星の元素合成過程では生成されず、炭素のような重い原子核が星間空間を伝播中に星間ガスとの衝突で生成される二次宇宙線と考えられている。従って、B/C比のエネルギー依存性が測定できれば宇宙線の伝播過程の理解に必須の拡散係数を導出することができるため、これまで多くの観測が行われてきたが、TeV領域はホウ素の希少性からこれまでほとんど観測例がなかった。CALETによる3.8TeV/nまでの今回の測定結果は、定量的な理論モデルの検証に重要な基礎データとなる。さらに、一次核(炭素)に対して二次核の方が硬化における冪の変化が大きいことを示した。陽子とヘリウムのエネルギースペクトルでは、500GV付近でスペクトルの硬化、10TV付近でスペクトルの軟化の兆候を検出し、冪の変化においては陽子とヘリウムが同様の構造を持つことを明らかにした。また標準的な理論モデルでは説明できないp/He比の減少を60TVまで示す観測結果が得られた。これらの成果は、それぞれPhysical Review Letters誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CALETは7年以上に渡り安定的に稼働しており、その観測精度は観測当初より宇宙線中の陽子・ヘリウムの最小電離損失粒子から検出器各要素のエネルギー較正を行っている。宇宙線のSEUに由来する装置の一時的な不具合は稀に生じるが、通常1日内に正常に復帰しており、実観測時間は安定して増えている。また装置に永久的な故障もほぼ発生しておらず、高い観測精度を維持している。データ解析は各観測対象に応じてそれぞれチーム内でおよそ独立した2グループで進めており、相互検証と信頼度の高い成果が順調に得られている。 B/C比、及び陽子、ヘリウムのエネルギースペクトルの測定は、CALETの主要な観測対象の一つであり、また本研究の所期の科学目的であった。論文発表に至ったことは順調な成果である。近年宇宙線の測定が精密化され、スペクトルの硬化などの標準的な宇宙線の加速・伝播の理論モデルでは説明できない観測事実に対し新たな理論モデルが提唱されているが、TeV領域に至るB/C比の観測はこれらの理論モデルに制約を与える上で重要な基礎データになる。これらの成果は論文発表、国内外の学会等で発表を実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
CALETは少なくとも2024年末までの運用が決まっており、現在までの運用状況から引き続き安定的なデータの蓄積を見込んでいる。すでに発表した主要な原子核成分(陽子、ヘリウム、炭素、酸素、鉄、ニッケル)については、より高統計のデータを基に観測エネルギーの高エネルギー側への進展を目指す。また未解析のデータとして、特にホウ素/酸素(B/O)比やsubFeと呼ばれるZ=21-25とFeの比(subFe/Fe比)の測定を狙う。B/O比はB/C比と同様に二次核/一次核比であり、特にB/C比とともに扱うことで二次核のスペクトル硬化が一次核に比べて大きいことの優位度向上に貢献できる。またsubFe/Fe比は、鉄が炭素や酸素に比べて断面積が大きいため、銀河内におけるより狭い領域における拡散係数の導出に寄与できる。subFeはその希少さからこれまであまり観測例はないが、CALETにおける初期的な解析では現在までの統計量でTeV領域に到達しており、詳細なデータ解析を進めて論文発表を目指す。さらに、電荷Z=10-16程度の原子核の解析を進める。スペクトルの硬化は、これまで軽核(Z<8)では存在する一方、重原子核(Fe, Ni)ではスペクトル硬化は見られなかった。中程度の原子核のスペクトル構造を詳細に調べることで、理論モデルの検証に寄与することを目指す。また電子成分については、2018年に発表したスペクトルから3倍以上の統計量に達しており、これを基にした最新のエネルギースペクトルの論文化を目指す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による影響で、当初予定していた国内外の学会がオンライン開催になったこと、また国際共同研究者の打ち合わせが延期になり、旅費が不要になったことが予算の次年度使用となった主な理由である。今後は、延期となっていた国際学会等への旅費として使用するほか、使用年限を過ぎつつあるサーバの代替品等を購入し、効率的なデータ解析の継続を図る予定である。
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