2021 Fiscal Year Research-status Report
中性子whispering gallery状態を用いた未知相互作用の探索
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21K03594
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
市川 豪 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究員 (60749985)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三島 賢二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別准教授 (20392136)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中性子 / 未知相互作用 / 素粒子実験 / 重力 / 中性子散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
凹面鏡に浅い角度で入射した中性子が凹面鏡表面を這うような量子状態を作る中性子whispering gallery状態を用いて、重力相互作用に修正を加えるような未知短距離力の探索を目指している。 中性子whispering gallery状態を用いた未知短距離力の高感度の探索のためには、先行実験より40倍強い中性子フラックスを持つJ-PARCパルス中性子源で中性子whispering gallery状態を実現し観測すること、および観測された分布を1%以上の高い精度でモデル計算により説明出来ることが不可欠である。 J-PARC MLF 2021年度後半に採択されたBL05のビームタイムを活用し、高精度に研磨されたガラス凹面鏡を用いてテスト実験を行うことが出来た。そこで世界ではじめてパルス中性子源を用いて中性子whispering gallery状態に特有の波長・発散角の2次元分布に表れる干渉縞を観測することに成功した。中性子ビームが空気中を通るため、中性子と空気の散乱によって背景事象を生み出すが、whispering gallery状態を生じない検出器領域の事象を用いることで十分な精度で差し引くことが出来た。凹面鏡へ入射するビームの入射角を少しずつ変えたスキャンにより、ビーム入射角による波長・発散角分布の変化を系統的に調べる測定も行うことが出来た。この結果と先行実験で得られている理論計算をもとに、中性子whispering gallery状態のモデル計算の構築を進めており、現状で実験を数%程度の精度で説明することが出来ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 nm以下の表面粗さのガラス凹面鏡を作成し、J-PARC MLF 2021年度後半のプロポーザルが採択されBL05でのビームタイムを得ることが出来たため、1年目の計画通り、精密研磨されたガラス凹面鏡を用いて世界ではじめてパルス中性子源によって中性子whispering gallery状態を観測することに成功した。観測された干渉縞の縞模様の山の位置(波長)も、実験前の予想と数%程度で一致している。
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Strategy for Future Research Activity |
実験とモデル計算は数%程度で一致しているが、さらに精度を高める必要がある。実験前の予想と異なり、凹面の空気側だけでなくガラス基板側から入射した中性子もwhispering gallery状態を作ることがテスト実験で確認されているため、この現象を用いてモデル計算を修正すれば未知短距離力探索に必要な1%以下の精度に到達出来ると期待している。 2022年度後半のJ-PARCビームタイムで未知短距離力の探索を行うことを目指し、質量密度の高い金薄膜で覆った凹面鏡を作成する。ガラス面上に形成された金薄膜の表面粗さもナノメートル以下の精度でなければならないため、さらなる研究開発が必要な可能性がある。 十分な表面精度の金薄膜凹面鏡が作成出来、ビームタイムを得られることが出来れば、金薄膜凹面鏡とガラス凹面鏡での中性子whispering gallery状態の干渉縞の相違から、未知短距離力の探索を行うことが出来る。金とガラスの密度の違い以外の系統的な変化を抑えるため、ガラス凹面鏡の中性子照射面の一部の領域に100 nm程度の厚みの金薄膜を形成し、同一のガラス凹面鏡基板で測定を行う。他の系統的な要因を抑え、両者に相違が見られれば未知短距離力が原因となる。相違がなければ未知短距離力に制限を付けることが出来る。 物理測定では、金とガラスのビーム照射領域を切り替えるために縦軸の自動ステージを導入し、ガラス基板を回転ステージに載せビーム入射角を切り替えることで、金とガラスでのビーム入射角とwhispering gallery状態の干渉縞模様の山の位置(波長)を観測することで高精度の測定を行う。
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Causes of Carryover |
試験照射用のガラス凹面鏡サンプルを使用したテスト実験によって、空気中の測定であっても中性子whispering gallery状態を十分詳細に観測出来ることが確かめられた。これは、事前の予想と異なり、凹面鏡のガラス面を通った中性子もwhispering galleryの形成に寄与し、イベントの統計量が高くなったためである。そのため、真空槽内で測定を行うための装置を導入する必要が無くなった。 次年度は、ガラス面と金薄膜でのwhispering galleryを系統誤差が抑制された状態で観測するために、凹面鏡を自動鉛直ステージでビームとは垂直の方向にスライドさせガラスと金の切り替えを行う手法で物理測定を行う。中央部に金薄膜を形成し、上下部にガラス表面を残すことで、ガラスと金の相違を見る際の系統的な誤差要因を減らす。そのために、新たなガラス凹面鏡に金薄膜層を形成し、自動鉛直ステージの導入を行う。
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