2021 Fiscal Year Research-status Report
自走する渦対の力学と輸送混合:古典的渦対から乱流的渦対への発展と河川水への応用
Project/Area Number |
21K03655
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中村 知裕 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (60400008)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海洋物理 / 渦 / 河川水 / 物質輸送 / 潮流 / 渦対 / 渦潮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、沿岸から外洋へ河川水・物質を効果的に輸送する「渦対」について、その力学と輸送・混合効果の解明を目的とする。沿岸は陸や人と外洋のインターフェースであり、多くの陸・人為起源物質が沿岸を介して外洋へ広がる。渦対とは、ペアとなった互いに逆回転の渦で、渦に伴う誘導速度で互いに相手を同じ方向に動かし「自走」する。渦対は、この「自走」により水を遠方まで輸送できる。海洋では、狭い海峡を速い潮流が流れると、海峡下流にジェットができ、その両側に渦対がしばしば形成されることが知られている。 本年度は、(1)鳴門海峡を想定した数値実験と鳴門海峡の衛星画像解析、および(2)厚岸湾での観測を行った。 (1)鳴門海峡は、潮流が速く、渦潮・渦対が形成される。衛星画像より、播磨灘側(海峡の北側)では、海峡部のジェットの向きがおよそ北北西なのに対し、渦対は形成ののち西へ大きく左折する。一方、紀伊水道側(南側)の渦対は、概ね直進するが、播磨灘側に比べ小さい。このような振舞の違いの理由を調べるため、播磨灘側に注目して数値実験を行った。その結果、沿岸地形、海底地形(水深変化)、密度成層が、渦対の進行方向、直径、進行速度に影響することが明らかになった。こうした効果は流量保存と渦管の伸縮に起因していた。 (2)厚岸湾では、引き潮時に河川水・湖水が厚岸湾に流れ出し、物質を輸送するとともに、厚岸湖の水を入れ替える。現場観測と衛星画像から、引き潮に伴う流出時に、ジェットと渦対そして鳴門の「渦潮」と似た小さい渦の列が形成されることが明らかになった。渦潮は潮流が最大5m/sと極めて速い鳴門海峡が有名だが、流速0.7m/s程度の厚岸湾でも見つかった。実は、渦潮は珍しい現象ではないことが判明した。また、厚岸湾の渦対は河川水を多く含む海水で形成されており、河川水流出も渦対を形成しうることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施した渦対の数値実験の数は計画より若干少ないが、形成・進行に対する地形の影響を明らかにできた。加えて、厚岸において渦対・ジェット・渦潮を見つけるなど、興味深い観測を実施できた。以上より、概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に行えなかった数値実験を行うとともに、計画通り渦対による河川水の輸送を調べるための数値実験を開始する。また、結果をまとめて論文に投稿していく。
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Causes of Carryover |
数値実験の結果を論文にまとめる計画であったが、英文校閲に出すのが年度内に間に合わなかったので、次年度使用が生じた。次年度にこれを行う計画である。
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Research Products
(6 results)