2022 Fiscal Year Research-status Report
FPGAによる混合精度浮動小数点演算を用いた数値気象モデルの実証研究
Project/Area Number |
21K03663
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
山浦 剛 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 技師 (00632978)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 数値気象モデル / 演算精度 / 演算加速器 / FPGA / 数値誤差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の要諦は、『ユーザー側で制御可能な演算加速装置』といえるFPGAを用いて、データが肥大化しがちな数値気象モデルの演算をより効率的に行うことである。前年度では2次元浅水波モデルに実装していた演算精度エミュレータを、数値気象モデルを作成するための気象基盤ライブラリ『SCALE』に改めて実装し直し、現実的な条件下での気象現象の再現実験を行えるように調整したが、今年度はそれを用いた局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)によるデータ同化実験をSCALEで実施した。これにより、再現実験によるアンサンブル確率予測手法について、現業の気象予測と同様の評価手法を利用することが可能となる。実験の性能比較においては、気象庁研究ノート201号(2002)のR指数を計算し、条件の異なる複数の実験の性能比較を行った。 数値実験は2019年10月15日、22日、29日0UTCの気象状態を初期条件とし、10メンバーの5日積分を行って500hPa面高度におけるジオポテンシャルのばらつきをR指数で評価した。その結果、従来の初期値アンサンブル手法と演算精度エミュレータによる数値誤差アンサンブル手法とを組み合わせたものが最も良い指数を示した。すなわち本研究で実施している数値誤差アンサンブル手法はその手法単体では従来の初期値アンサンブル手法に及ばないものの、それを補完して気象予報の精度向上に寄与する可能性があることを示している。本研究成果については年度後半に開催される理化学研究所の国際シンポジウムでの発表する予定であったが、諸事情により上記の結果についての発表を取りやめ、次年度に延期することとした。 その他、コロナ禍による半導体不足により導入が遅れていたFPGAサーバについて、今年度後半に納入が完了、稼働させることができた。FPGAテストプログラムを実行し、問題なく動作することも確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実績の概要で示したように、今年度は数値気象モデルを作成するための気象基盤ライブラリ『SCALE』に改めて実装し直した演算精度エミュレータを用いた、局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)によるデータ同化実験をSCALEで実施した。これにより、再現実験によるアンサンブル確率予測手法について、現業の気象予測と同様の評価手法を利用することが可能となった。実験の性能比較においては、気象庁研究ノート201号(2002)のR指数を計算し、実験条件の異なる複数の実験の性能比較を行った。 数値実験は2019年10月15日、22日、29日0UTCの気象状態を初期条件とし、10メンバーの5日積分を行って500hPa面高度におけるジオポテンシャルのばらつきをR指数で評価した。その結果、従来の初期値アンサンブル手法と演算精度エミュレータによる数値誤差アンサンブル手法とを組み合わせた手法が最も良い指数を示すことが分かった。すなわち本研究で実施している数値誤差アンサンブル手法はその手法単体では従来の初期値アンサンブル手法に及ばないものの、それを補完して気象予報の精度向上に寄与する可能性があることを示している。 本研究成果については年度後半に開催される理化学研究所の国際シンポジウムでの発表する予定であったが、諸事情により延期、代わりに令和5年度に開催される国際会議2件、および国内会議1件に投稿する予定である。 また昨年度投稿を予定していた論文についても、課題代表者が所属する研究所内の内部進捗報告ミーティングで報告したところ、論文の骨子に関わる部分についてもう少し補強すべきという意見をいくつか頂戴した。そのため、昨年度内の論文投稿を延期、本年度に再度投稿を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度の研究については、演算精度エミュレータを用いた混合精度浮動小数点演算によるアンサンブル確率予測の評価を再度まとめ直し、原著論文として国際学術誌に投稿する予定である。 続く研究計画の第二段階として、その混合精度浮動小数点演算をハードウェア上で行うことができるFPGAを用いて、実際に余計な演算コストを必要とせずに従来のアンサンブル確率予測と同等以上の演算パフォーマンスを得られるかを確認する。令和4年度の後半になって漸くFPGAサーバの納入が済んだため、テストプログラムの動作確認までしか行えていない。加えて、第一子の誕生という家庭の事情により、長時間の集中した勤務環境の整備や出張による研究発表および情報収集などが行いづらくなっていた。今年度はリモートワークを活用し、遠隔地からもFPGAサーバにアクセスできるように整備したので、予定していた研究を進められるようになっている。
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Causes of Carryover |
FPGAサーバの導入のために予算額の算定を行っていたが、半導体の価格下落が急速に進み、見積額が年度初めの段階よりも数段下がっていたため、差分が発生した。ただし令和4年度に実施した数値実験の結果、現在入手している観測データよりもさらに多くのデータが必要になったため、そのデータの購入に充てる予定である。
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