2021 Fiscal Year Research-status Report
狭い海洋フロントにおけるサブメソスケール現象の発生・発達に関わる不安定機構の解明
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21K03664
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
田中 祐希 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (80632380)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海洋フロント / 線形安定性解析 / サブメソスケール擾乱 / 混合層不安定 / 対称不安定 |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋中のサブメソスケール(数km~数十km)現象は、熱や運動量の水平・鉛直輸送を通じて海盆スケールの循環に影響を与える重要な物理過程である。サブメソスケール現象を励起する代表的な機構として、黒潮・黒潮続流のようなフロント域で活発に働く混合層不安定と対称不安定があげられる。両不安定の分散関係や空間構造などの物理特性は、これまで主に、水平・鉛直方向ともに一様なシアーを持つという極めて理想的なフロントを仮定した理論解析によって調べられてきた。しかしながら、現実海洋においては、強い水平・鉛直シアーを伴う顕著なフロントは、黒潮・黒潮続流のような強流帯やそこから派生するメソスケール渦周辺のせいぜい幅数十キロメートル・深さ数百メートル程度の狭い範囲に限定されている。このような局所的なフロント中で発生する不安定擾乱の物理特性は、無限に広いフロントを仮定して得られる理論解とは大きく異なる可能性がある。 そこで本年度は、現実的な狭い海洋フロントで卓越する不安定モードの物理特性を調べるために、「フロントを横切る方向 ~ 鉛直方向」の二次元断面内におけるプリミティブ方程式系で線形安定性解析を行うためのコードを開発した。黒潮続流域をモデル化した背景場に対する計算から、以下のような結果が得られた。(i) 最も卓越する不安定モードは、フロントに沿った方向の擾乱の波数が小さいうちは対称不安定であるのに対し、波数が大きくなるにつれて混合層不安定に移る。(ii) 両者の空間構造は、対称不安定はほぼ完全に背景場の負の渦位領域内に限定され、等密度面に平行であるのに対し、混合層不安定は時にフロントの幅よりも大きな空間スケールを持つ。(iii) フロントに沿った方向の位相速度は、混合層不安定は対称不安定よりもずっと小さい。以上のような物理特性の違いは、現実的なフロントにおける両不安定の区別に有用であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度には、「フロントを横切る方向 ~ 鉛直方向」の鉛直二次元断面内におけるプリミティブ方程式系で線形安定性解析を行うためのコードを予定通り作成することができた。さらに、これを用いた予備的な解析の結果、現実的な狭い海洋フロントで卓越する混合層不安定と対称不安定の特徴について、いくつかの興味深い知見を得ることができた。ただし、得られた結果に対する力学的な考察はまだ不十分である。また、2021年度に調べたフロントは一例に過ぎず、今後、背景場パラメータに対する依存性をより詳細に調べる必要がある。以上を踏まえて、全体的な進捗状況としては概ね順調と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には、「フロントを横切る方向 ~ 鉛直方向」の二次元断面内におけるプリミティブ方程式系で線形安定性解析を行うためのコードを開発し、これを現実的な狭い海洋フロントに適用することで、そこで発達する混合層不安定と対称不安定の特徴について、いくつかの興味深い結果を得ることができた。 2022年度には、フロントに沿った方向の擾乱の波数が小さいときに卓越し、非常に大きな成長率を持つ対称不安定に着目し、その力学的な理解を深める。具体的には、対称不安定の空間構造や成長率が無限に広いフロントを仮定した従来の理論とどう異なるのか、フロントの広さや強さなどの背景場パラメータにどう依存するのか、などを明らかにする。このために、まず、対称不安定の最も単純な場合と解釈することのできる慣性不安定について詳細な解析を行う。慣性不安定は、対称不安定と異なり浅水系(鉛直一次元系)で再現可能なため、高解像度での解析が可能になるとともに、背景場のパラメータや境界条件を様々に変更した感度実験が容易になる利点がある。この慣性不安定に対する結果を踏まえて、再び鉛直二次元断面内での解析を行うことで、対称不安定についてのパラメータ依存性を考察する。さらに、高解像度の非静水圧モデルを用いた数値実験を行うことで、線形安定性解析の結果を検証するとともに、非線形過程が重要になる不安定擾乱の発達後期における振る舞いを調べる。
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Causes of Carryover |
2021年度は、すべての解析が手元のPCで実行できたため、大型計算機の使用に計上していた予算に残額が生じた。また、研究成果発表のための国内および国際会議への参加費や出張旅費、論文の投稿費および英文校閲費なども当初の予定より安くすんだことから、これらに計上していた予算の一部を次年度使用額として計上することとした。 2022年度には、大型計算機の使用料に15万円、研究打ち合わせ旅費に5万円、国内学会での成果発表およびその出張旅費に15万円、国際会議での成果発表およびその出張旅費に35万円、論文投稿料に30万円、論文の英文校閲費に5万円、データ解析および図の描画用のソフトの購入に10万円、データ保存用のハードディスク購入に10万円、発表等に用いるノートPCの購入に10万円、本研究課題に関連する専門図書の購入に5万円程度の使用を予定している。
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Research Products
(3 results)