2023 Fiscal Year Research-status Report
完新世後期の海水準の高精度復元:「弥生の小海退」の検証
Project/Area Number |
21K03691
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
谷川 晃一朗 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (30613541)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 相対的海水準変動 / 完新世 / 弥生の小海退 / 珪藻化石分析 / 円山川下流域 / 久美浜湾 |
Outline of Annual Research Achievements |
兵庫県豊岡市の長谷及び中谷地区の計5地点において,昨年度に機械ボーリングにより採取した堆積物試料(深さ最大4m)の層相の観察・記載,珪藻化石分析を実施した.長谷地区の表層4mまでの地層は上位から主に,耕作土及び盛土,泥炭質シルト層(標高約0.7~1.2m),泥炭層(標高0.1~0.7m),植物片に富む細粒~中粒砂層(標高-0.4~0.1m),有機質な砂質シルト層(標高-1.6~-0.4m)により構成される.現在,珪藻化石分析を進めているが,泥炭層では珪藻化石の含有量が少ない傾向がみられる.泥炭層下位の細粒~中粒砂層では海~汽水生珪藻と淡水生珪藻が混在しており,下位の砂質シルト層にかけて海~汽水生種が増加するとみられる.試掘の際に実施した簡易的な珪藻化石分析では,海成層と陸成層の境界が標高約0~-1m付近に存在する可能性が示唆されており,おおむね同様の結果を示すと考えられる.中谷地区の表層4mまでの地層は上位から主に,耕作土及び盛土,細礫の混じる粘土層(標高約0.1~1.8m),植物片に富む粘土層(標高-0.7~0.1m),シルト層(標高-1.9~-0.7m)により構成される.標高-1.4mより下位のシルト層からは貝化石が産出する.近傍の地点のコアを使用した先行研究では,貝化石を含むシルト層上位の有機質層中に海成層の上限を認定しており,中谷地区においても標高約0~-1m付近に海成層と陸成層の境界が存在する可能性がある. また,円山川最下流の塩性湿地から採取した堆積物の粒度分析を行い,湿地表層に生育する現生珪藻の分析も実施中である.潮間帯上部の堆積物では,ボーリング試料からも産出する泥質干潟の指標とされる種が優先した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス等の影響により試掘調査に時間を要したため,令和4年度の機械ボーリング調査,令和5年度の堆積物試料の分析に順次遅れが生じている.また,令和5年度には学生の指導など,研究開始時には考慮していなかった事象も生じたため分析が予定通り進められなかった.
|
Strategy for Future Research Activity |
機械ボーリングにより採取した堆積物試料の珪藻化石分析を引き続き進め,相対的海水準のインデックスポイントを推定し,放射性炭素年代測定によりその層準の堆積年代を決定する.また同時に,円山川最下流域と久美浜湾南東部の塩性湿地において採取した現世堆積物の珪藻分析を進める.これらの分析結果を取りまとめ,完新世後期の当地域の相対的海水準変動を明らかにし,弥生の小海退について議論したい.
|
Causes of Carryover |
ボーリング試料の分割や粒度分析のため実験補助者の人件費を支出したが,採取した堆積物試料の珪藻化石分析が完了しておらず放射性炭素年代測定を実施しなかったため,次年度使用が生じた.来年度は主に年代測定を実施する予定である.
|