2021 Fiscal Year Research-status Report
高温高圧下における硫黄の熔融ケイ酸塩-液体鉄間分配に関する第一原理計算
Project/Area Number |
21K03703
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
土屋 卓久 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 教授 (70403863)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 核-マントル間の硫黄分配 / 地球外核の化学組成 / 地球の揮発性元素進化 / 第一原理計算法 / 熱力学積分法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、地球深部の高温高圧条件下での液体鉄-熔融ケイ酸塩間における硫黄の分配特性を明らかにすることを目的として、独自開発した第一原理熱力学積分分子動力学法(AI-TI-MD法, Taniuchi and Tsuchiya, 2018)を用いて、硫黄の分配係数に対する温度・圧力・酸素雰囲気の効果や、SO2、H2S、単体Sなどの硫黄の化学種の相違による影響について計算を行った。また、熱力学積分を高精度で求めるためのプログラムの高度化及び計算条件の最適化を行った。 本年度実施した計算の結果、まず硫黄はS2、SO2、H2Sの化学種の順に高い親鉄性を有することが分かった。しかしながらいずれの化学種の場合においても硫黄の親鉄性は十分に高く、また高圧下ではより親鉄的になる傾向がみられた。実験的に仮定されている硫黄とケイ酸塩中の鉄の平衡反応についても調べた結果、この場合も硫黄は高い親鉄性を有するという結果が得られた。 従来の実験研究では、高温下で硫黄の親鉄性が増加するとするマルチアンビルなどによる実験結果と、高温下で硫黄の親鉄性はそれほど増加しないとするより最近のダイヤモンド・アンビル・セルによる実験結果が大きく食い違っている。本年度実施した計算の結果は、高圧下でも硫黄は化学種によらず高い親鉄性を維持することを示しており、これはマルチアンビルなどによる実験を支持するものである。 今後、液体鉄中の酸素濃度や熔融ケイ酸塩中の鉄濃度を系統的に変化させることで、液体鉄-熔融ケイ酸塩間での硫黄の分配特性について体系化することで、硫黄の分配特性に対する液体鉄及び熔融ケイ酸塩の組成や酸素フガシティーの影響などを包括的に明らかにするとともに、得られた硫黄の分配係数を用いて原始地球の成長過程に伴う核中の硫黄量の変化をモデル化する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第一原理熱力学積分分子動力学(AI-TI-MD, Taniuchi and Tsuchiya, 2018)プログラムの高度化及び計算条件の最適化を行い、計算時間を1/3~1/4に短縮する飛躍的な効率化に成功した。これにより初年度と2年度において実施を計画していた、地球深部の高温高圧条件下での液体鉄-熔融ケイ酸塩間における硫黄の分配特性に対する温度・圧力の効果や、SO2、H2S、単体Sなどの硫黄の化学種の相違による影響について、本年度中にほぼ計算を終了することができた。そして、温度圧力条件を系統的に変化させて分配特性を計算することで、液体鉄-熔融ケイ酸塩間での硫黄の分配特性について体系化したモデル式の構築にも成功した。それらの結果について、日本高圧力学会年会、アジア・オセアニア地球科学連合年会、高圧力研究アジア会議において発表を行うことができた。今後、液体鉄中の酸素濃度や熔融ケイ酸塩中の鉄濃度を変化させて計算を進めることで、高圧下での定量的な実験測定が困難な酸素フガシティーの効果についても考慮した、高温高圧下における硫黄の分配特性についての包括的な理解が可能となる。現在までの進捗状況から、これを実現する道筋が十分に整ったといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度行った計算を拡張し、液体鉄中の酸素濃度や熔融ケイ酸塩中の鉄濃度を系統的に変化させて硫黄の分配特性の計算を行い、温度・圧力効果のみならず、高圧下での定量的な実験測定が困難な酸素フガシティーの効果も考慮した硫黄の包括的な理解を進める。その後、得られた分配特性を用いて、従来の実験研究において見られた不一致の原因について考察を行うとともに、原始地球の成長過程に伴う核中の硫黄量の変化モデルの構築を行う。具体的には、初期地球において核-マントル分離が生じた温度圧力条件やマグマオーシャンの酸素雰囲気などを複数仮定し、それぞれの場合において初期地球の成長に伴い核中の硫黄量がどのように変化するか評価する。構築した硫黄に関する核の組成進化モデルに基づき、硫黄が現在の地球核における主たる軽元素の候補となり得るかについても検討する。この際、鉄-硫黄合金液体の弾性特性(Ichikawa and Tsuchiya, 2020)を用いてP波速度及び密度を求め、実際の地球核の観測データとの比較も行う。これらの解析を通して、さらに地球集積時における揮発性元素獲得過程についても考察する。地球集積過程における硫黄獲得量を均質集積及び非均質集積を仮定してそれぞれ算出し、現在のマントル中の硫黄濃度(Lorand et al., 2013)に合致するような化学進化プロセスを探索する。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大により、参加を予定していた学会のほとんどがオンラインによる開催となったため、旅費を使用しなかった。またシミュレーションプログラムの高度化に成功し、計算時間の大幅な短縮が実現されたため、予定していた計算機の購入も延期した。ワクチン接種や感染防止対策の徹底により、次年度には徐々に現地開催の学会や研究会が増加すると予想され、これらの参加旅費に使用する予定である。計算機についても、プログラムの高度化等が順調に進んだため、今後計算機使用量の増大が予想される。リソースの需要増加の状況に応じて計算機を購入する予定である。また次年度は、膨大な数値計算データの整理等を行うために研究支援員を雇用する。そのための人件費を確保する。
|