2021 Fiscal Year Research-status Report
High-resolution reconstruction of the ancient oceanographic environments based on the development of evaluating method of microscopic three-dimensional fabrics of sediments
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21K03704
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
伊藤 康人 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 教授 (20285315)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 地質学 / 岩石磁気学 / 古環境 / 磁性流体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、強磁性鉱物の懸濁液(磁性流体)を試料に含浸させ、その磁化率異方性測定とX線CTスキャンによって得られたデータを解析し、地球と生命の共進化過程と古環境変遷の解明に必要な情報の質・量を飛躍的に向上させることを目的としている。2021年度においては、対象となる地層の堆積プロセスに関するモデル再検討と、磁性流体含浸試料作成の方法論の検討が、主要な作業内容となっていた。特にその前者に関して、本州の代表的な新期テクトニックベースンである大阪堆積盆で、年代論が確立している第四系・大阪層群の三次元的分布とその層相変化を解明するため、人工地震探査データの解釈を行った。一般的に地中を伝播する弾性波は、音響インピーダンス(密度と弾性波速度の積)コントラストが大きい地層境界で反射される。大阪層群は、太古の気候変動に伴って海成・非海成の部分が何度も繰り返すシーケンスを示すので、海成粘土層はグローバルな温暖化のタイミングを示唆する非常に鮮明な反射面となる。また、それは海域の拡大と共に堆積盆全体に分布を広げるので、連続性の良い基準面として構造運動解釈にも極めて有用である。今回は、国内外で十分な実績を有する分析機関に、鍵となる地震探査データの再処理を委託した。具体的には、フィールドで取得された原データの共通反射点重合に際して、地層の弾性波速度を計算しつつ走時補正を行い、重合後に波の伝播経路を考慮したマイグレーション処理を記録断面全体にわたって実施した。その結果、温暖化による海進イベントが正確に認定され、今後磁性流体を用いた実験を進めるにあたって必ず試料を採取すべき重要な層準がどこかを特定することができた。また、先行研究で明らかにされている他地域の堆積盆沈降史との比較に基づき、構造発達エピソードの時系列を整理することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
磁性流体を用いた実験は、それを岩石中に含浸させるため長い時間(百気圧の高圧化で1ヶ月)を要するため、定められた研究期間に実り多い成果を上げるためには、分析対象とする地層を注意深く選択する必要がある。例えば、断層運動など激しい構造変形によって破壊の進んだ地層は、ダメージの蓄積した方向に試薬が浸透しやすく、一般的な地層と異なるファブリックを示すことも多い。2021年度に実施した分析の結果、地層変形の時空分布が明らかとなり、堆積盆を取り巻く活断層の運動フェーズを推定することができた。具体的には、第四紀の日本列島で卓越している東西方向の圧縮応力に伴ってずれを繰り返している南北走向の活断層(今回の調査エリアでは生駒断層や上町断層が該当)の発達プロセスに関して新たな制約条件を得ることができた。これらの断層は人口密集地を通っているため、大規模な地下探査を行うことは困難なケースが多く、これまでの研究では運動像が十分に理解されていなかった。今回は、大深度ボーリング調査に関してデータ空白域となっていた大阪平野東部を分析対象としたので、地下資源探査や環境保全・地盤改良といった実利的側面からも重要な情報を得ることができた。同地域では、地表地質調査に基づく堆積岩ファブリックはこれまで多くの研究者によって報告されてきたが、その三次元的な総合評価は膨大な時間を要すると同時に、定量的かつ恣意性のない評価が困難であるという欠点が残されていた。今回は、地下数キロメートルを可視化する人工地震探査データを活用し、既存の地質学的情報と組み合わせることによって、地球の進化プロセス解明に必要な情報の質・量を向上させるという目的を達成するための、重要な知見を得たと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、ターゲットとなる地層について磁性流体含浸試料の作成を継続しつつ、海洋プレート沈み込みに伴う火成活動ヒストリー構築など、基礎となる地質情報データベースを整備する。併せて、磁化率異方性測定とX線マイクロフォーカスCTスキャンデータ取得を完了させる。また、これまでに明らかになった重要な地殻変動の三次元的な拡がりを評価するため、リモートセンシング技術を活用する。近年、合成開口レーダー(SAR)を搭載した人工衛星データは、各種陸域観測で目覚ましい成果を上げつつある。特に、そのデータの干渉解析によって、地表変位をミリメートル単位で評価することが可能になる。いわば、人工地震探査で鉛直方向の構造トレンドを把握する一方で、SARデータ解析で水平方向の構造アノマリー分布を明らかにし、広域イベントの全貌解明を試みる。最終年度にあたっては、地球と生命の共進化プロセスの鍵とされる大量絶滅イベント中に形成された堆積岩について、磁性流体実験と並行して地化学分析を実施し、酸化還元状態を定量評価する。作業は、各種地化学分析に実績を有する東北大学工学部・工学研究科技術部の合同計測分析班に委託する。これと同時に、X線CTスキャンデータを三次元化する。具体的にはCTの濃淡画像を積み重ねて立体データ(ボリュームデータ)に変換し、その輝度値から一定の閾値の等値面を可視化する。この画像を基に、生痕断面の平均直径や堆積岩中における生痕の占める密度をソフトウェア上で数値化して、古環境を精密かつ定量的に復元する。一方、テクトニックイベントに連動する広域応力場の変化は、磁化率異方性が示す堆積岩ファブリックの解析から定量的に評価する。以上のデータを総覧し、広域的なテクトニックイベントが引き起こした古環境変動を統合的に解釈して、学会発表すると共に、オープンアクセスの学術論文として取り纏める。
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Research Products
(1 results)