2021 Fiscal Year Research-status Report
その場観察実験と計算機モデリングによる含水ケイ酸塩メルトの構造と圧力効果の解明
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21K03707
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Research Institution | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発 |
Principal Investigator |
舟越 賢一 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 主任研究員 (30344394)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 含水ケイ酸塩メルト / マグマ / X線 / 中性子 / 高圧 / 構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
水はマグマに含まれる主要な成分であり、マグマの密度や粘性などの物性は含水量や圧力条件に強く依存することが知られている。マグマすなわち含水ケイ酸塩メルトにおける物性変化は、メルト構造の基本単位を形成しているSiO4四面体が連なったネットワークの重合度の変化と深く関係しており、重合度は含水量や圧力条件で大きく変化することが知られている。本研究では、シンプルな化学組成の含水ケイ酸塩メルトであるNa2O-XSiO2(X=2~4)-H2OメルトについてのX線および中性子を使った高圧実験を行い、メルト中のネットワークを構成しているミクロ構造およびマクロ構造を明らかにする。さらに含水量や圧力変化に対するネットワークと重合度の解析から、マグマの物性変化の原因を解明することが目的である。 2021年度は、構造や物性が既知のNa2O-8/3SiO2に対して5wt%の水を添加したNa2O-8/3SiO2-H2Oメルトについての高圧下におけるX線および中性子実験を行った。特に中性子実験ではメルト試料を長時間安定に封入できる試料容器が必要であるが、本研究では銀パラジウム合金を用いた試料容器を開発することによって、含水ケイ酸塩メルトについての高圧下における中性子回折測定に初めて成功した。5 GPaまでの圧力変化におけるメルト構造の解析の結果、圧力増加に対してメルト中のネットワークを形成しているSiO4四面体中のSi-O距離が徐々に収縮していくのに対し、SiO4四面体中の酸素と結合している水素との間のO-H距離は徐々に伸長することが分かった。さらにメルト中の詳細な構造を解析するため、現在、第一原理分子動力学計算を用いたモデリング解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
含水ケイ酸塩メルトについてのX線回折測定においては、類似の化学組成を持つ含水かんらん岩質メルトの実験において利用実績のあるダイヤモンド-白金製の試料容器を使用することによって、5 GPaまでの高圧実験に成功した。しかし、X線回折測定の2倍以上の長時間測定が必要となる中性子回折測定においては、試料容器内に含水ケイ酸塩メルトを長時間保持することが難しく、別の試料容器を新たに開発することが必要となった。開発を進めた結果、銀パラジウム合金を使った試料容器が完成し、長時間の高圧中性子回折測定に成功した。しかし、当初の計画に予定していなかった試料容器開発を優先して進めたため、2021年度中に予定していた実験や解析を計画通りに実施することができなかった。 また、2021年度では高温炉に付属する急冷装置を製作し、メルト実験の出発試料となる様々な化学組成のケイ酸塩ガラス試料の合成を予定していた。しかし、コロナ禍の影響によって業者による製作工程が大幅に遅延し、急冷装置の製作が間に合わなかったために予定していた出発試料の合成および高圧実験を実施できなかった。 以上の理由により、2021年度の進捗状況については、やや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度中に実施できなかった急冷装置の製作・導入を優先して行う。急冷装置と既存の高温炉を組み合わせることによって、Na2O-XSiO2(X=2~4)における様々な種類の出発試料を合成することが可能になり、これらに水を定量添加した含水ケイ酸塩メルトについてのX線回折および中性子回折測定を実施する。また、2021年度に高圧実験を実施したNa2O-8/3SiO2-H2O(5,10wt%)メルトについての詳細な構造解析を進める。X線回折および中性子回折によって得られた2種類の構造因子をフーリエ変換した動径分布関数を解析する(PDF解析)ことによってメルト中のマクロ構造(ネットワーク、クラスター)を求め、さらに第一原理分子動力学計算を使ったモデリング解析を行うことによってメルト中のミクロな構造(化学種、分子種)を解析する。また、得られた含水量や圧力変化に対するマクロ・ミクロ構造の情報を基にメルトの圧縮メカニズムや水との反応メカニズムについての考察を行う。
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Causes of Carryover |
2021年度では、実験の出発試料となるケイ酸塩ガラスを合成するための急冷装置を製作し、高温炉と組み合わせることによって様々な化学組成の出発試料を合成する計画であった。しかし、コロナ禍の影響によって業者が製作できなくなったため、2021年度中に急冷装置を導入することができなかった。さらに急冷装置を使った出発試料の合成が不可能となったことによって予定していたメルトについてのX線および中性子実験を中止したことにより、付随する実験消耗品の購入や実験旅費等を使用するに至らなかった。2022年度では、急冷装置を製作して出発試料の合成を行うとともに、2021年度に実施できなかったメルトについてのX線および中性子実験を行うため、前年度の未実施分の費用も合わせて執行する予定である。
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