2022 Fiscal Year Research-status Report
白亜紀海洋無酸素事変の原因としての“風化仮説”の検証
Project/Area Number |
21K03728
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
太田 亨 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40409610)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海洋無酸素事変 / 白亜紀 / 蝦夷層群 / 風化仮説 |
Outline of Annual Research Achievements |
白亜紀に発生した海洋無酸素化事変(OAEs)は,温室期における地球システムを理解する上で,重要な研究対象であり,本研究計画では,OAEsの発動要因として注目されている“風化仮説”の実態と影響を検証する.手法としては,OAEs層準で採取した泥岩試料を,申請者が開発した地球化学的な“後背地風化指標であるW値を用いて,OAEsと後背地の風化度の関係を吟味することを目的としている. 本年度は,コロナ禍のため延期していた小平地域における現地調査を実施した.具体的には金尻沢とコリント沢においてMid-Cenomanian Event (MCE)を含む層準の日陰ノ沢層と佐久層の地質調査と泥岩35試料のサンプリングを行った.これらの試料に対して,蛍光X線分析とX線回折分析を実施して化学組成と鉱物組成を分析した. イライト結晶度から推定される,本試料の続成作用は比較的弱かったことが分かった.したがって,続成作用によって初生的な化学組成や鉱物組成が改変されていないことが確認できた.泥岩は白亜紀の堆積当時の後背地風化度を記録として保持していると考えられる. 泥岩の化学組成と粘土鉱物組成から後背地風化度を算出したところ,白亜紀の蝦夷層群は温暖湿潤気候に属しているが,その中でも比較的寒冷な部類に属していることが示唆された.また,後背地風化度はMCE層準にて特段の増加が確認できなかった.したがって,MCEに関しては,風化仮説はその発生要因として説明が難しいことが分かった.ただ,逆に,MCEの上位層準に位置するOAE2における後背地風化度の増加が著しいものであることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
天塩中川地域と小平地域にて採取した試料の鉱物組成・化学組成の分析は全て完了している.これらのデータから,まず,後背地組成と続成作用による鉱物・化学組成の変動を検証した.その上で,後背地風化度を算出した.後背地風化指標の値は,白亜紀の北海道がやや寒冷な温暖湿潤気候に属していたことが分かった.白亜紀を通しての後背地風化度の変化パターンは古気温変動の変動パターンと一致していることが分かった.したがって,東アジア大陸の風化作用は白亜紀の気温に依存していたことが分かった. また,セノマニアン期の高解像度による後背地風化度の変遷をも検証した.その結果,Mid-Cenomanian Eventにおいては後背地風化度の上昇が検視されなかったが,Oceanic Anoxic Event 2(OAE 2)においては顕著な後背地風化度の上昇が伴っていることが判明した.このことからOAE 2の発生モデルとして,風化仮説が作用していた可能性がある.今後は他のデータからも風化仮説が発動していた追証を得たい.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,現地調査・機器分析・データ解析の全てが完了した状況にある.したがって,今後は論文化の執筆活動と,学会公演が研究方針の中心になる.執筆の際には,本研究のデータの比較対象としてヨーロッパ地域のOAE 2のデータ収集に尽力する.これは,太平洋地域では無酸素化していなかったが,ヨーロッパ地域では無酸素化が顕著だったことが知られているので,OAE 2の風化仮説を検証する上では,北海道のデータのみに依存して解明することが困難だと考えられるからである.したがって,執筆活動と共に文献調査を推進する方針である.
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