2022 Fiscal Year Research-status Report
白亜紀末隕石衝突に伴って何が起きたのか:親銅元素組成をもとにした環境復元
Project/Area Number |
21K03733
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
丸岡 照幸 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (80400646)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西尾 嘉朗 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 准教授 (70373462)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 巨大隕石衝突 / 親銅元素 / 環境変動解析 / 酸性雨 / 高温凝縮物 / 大量絶滅 / 白亜紀-古第三紀境界 |
Outline of Annual Research Achievements |
白亜紀末には10kmサイズの巨大隕石が地球に衝突し、それが「引きがね」となって生物大量絶滅が起きた。巨大隕石衝突はあくまで引きがねであり、それに伴って起こる環境変動が生物大量絶滅の原因であるが、それが何かは明確になっていない。白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界層には隕石に由来する親鉄元素の濃縮が見出されているが、硫化物を形成しやすい親銅元素もK-Pg境界層に濃縮している。親銅元素/親鉄元素比は2-3桁程度コンドライト組成よりも高く、K-Pg境界の親銅元素は隕石由来ではなく、地表で起こる何らかの現象を反映して高濃度になっている。親銅元素組成からこの隕石衝突直後に起きた現象を捉えることを目的として研究を進めている。 本研究では、白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界試料に対してレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)による局所微量元素分析を適用した。イオンカウントが高い相関を示す元素同士でも、イオンカウント比(例えば、As/Fe)が必ずしも一様ではなく、ビーム強度により比が変化していることが分かった。標準試料ではこのような比のずれは見いだせておらず、分析上の問題ではなく、元素比の異なる粒子が存在している。ビーム強度の大きな粒子は大きな粒子に由来するので、粒子径により元素比が異なっていることを示している。このような粒子径の違いは生成条件の違いを反映していると考えられる。これらの違いが何であるのか、その元素比の違いが何を表しているのか、議論を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
微量元素分析は主成分(マトリックス)を合わせた分析が必要になる。パイライトの分析においては、米国地質調査所(USGS; United States Geological Survey)から購入できる親銅元素に富み、鉄を多く含むMASS-1という標準試料が多くの研究室で使われている。しかし、USGSの担当者が定年により退職し、その後の担当が決まっておらず、標準試料の頒布が滞っている。この標準試料は未だに手に入っていない。本年度は、これまでの1種のガラス標準試料に加えて、さらに2種のガラス標準試料を利用した分析を始めた。これにより、多くの微量元素に関して、3点からなる検量線を引くことが可能となった。一方で、パイライトの主成分であるFeに関しては、これらのガラス標準試料は、微量元素としてしか含んでいないため、濃度定量性には問題がある。現状ではFeに関しては検量線が得られていない。ただし、局所分析を行ったことにより、どの元素がパイライトに存在するのかに関しては明らかにすることができている。また、これまでは線分析の繰り返しで面分析を行っていた。この方法では走査線の間に未測定の隙間があり、すべての粒子を網羅できていなかった。昨年度末に行った装置のメンテナンスのときに、ソフト的に面分析を行うことが容易となった。これにより、時間を掛けずに隙間なく面分析することが可能になり、広範囲のスキャンにより微量元素の微細な構造を得ることもできている。例えば、Coの一部はMnと相関があり、マンガンに富む粒子に存在している成分が存在していることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
硫化物微量元素分析用の標準試料を購入するための、米国地質調査所との交渉(問い合わせ)は今後も続けていく。一方で、Feを主要元素として含み、他の手法ですでに定量済みの火山ガラスを3種準備できている。これらを樹脂埋めし、標準試料として分析することで、Feに関しても定量が可能になると考えている。イオン強度の大小で元素比に違いがあることが示されたが、LA-ICP-MS分析後の試料のSEM観察を行い、ビームの由来となる粒子の粒径を調べる。一般論として、堆積岩中の粒径の小さな黄鉄鉱粒子(パイライト)の形成は、無酸素領域が堆積物-海水境界面よりも上に来る、貧酸素条件下の海洋である。一方で、堆積物-海水境界面よりも下に来る場合、すなわち酸素を含む海水が海底面に存在する富酸素条件下では、パイライトは堆積物内でゆっくりと成長できるので粒径が大きくなる。このような考えと微量元素組成を合わせて、その堆積環境の差異を論じていきたい。条件が変化している粒子が含まれているということは、環境条件が変化したということであり、隕石衝突直後の環境変化を捉えることができる可能性がある。形成順序を理解することができるのが一番良いが、微量元素組成などを駆使して、隕石衝突後のどのような現象(衝突加熱による揮発成分放出、大規模山火事、酸性雨、寒冷化、温暖化など)に関連している粒子なのかが理解できるようになればと考えている。
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Research Products
(11 results)