2021 Fiscal Year Research-status Report
エポキシ樹脂の不均質構造の定量化と疲労特性への影響
Project/Area Number |
21K03752
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
松田 聡 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (40316047)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | エポキシ樹脂 / 不均一構造 / ガラス転移温度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の最終的な目的は,ネットワーク構造と疲労下限界のミクロな破壊プロセスとの関係を実験的に明らかにし,マクロな疲労き裂伝ぱ抵抗へ及ぼす影響を知ることである.令和3年度は,まずネットワークの疎密差による可塑化の違いを顕在化,疎密差の定量化し様々な粗密差を有するエポキシ樹脂を作製すること,次いでネットワークの疎密のサイズや分散状態も明らかにすることを目標としていた.特に前者は今後の研究を進めていく上でなるべく早い達成することが望ましい. エポキシ樹脂は,エポキシ主剤と硬化剤の組み合わせからでき,これらを変化させることにより様々なエポキシ樹脂を作製した.作製したエポキシ樹脂はすべて吸水率が2%を超えると二段階のガラス転移挙動がみられるようになり,すべてのエポキシで架橋密度の粗密差があることを明らかとした.負荷重合ー触媒混合型の硬化剤を用いてエポキシ樹脂の平均分子量を変化させた結果,平衡吸水後のガラス転移温度は分子量に依存せず,ほぼ一定となった.また,架橋点間分子量を同じにし,分子量分布を変化させた硬化物について検討した結果,平衡吸水後のガラス転移温度は分子量分布が広いほうが高くなった.これらのエポキシ樹脂は低温側ピークの割合は0.37から0.45まで変化したが,0.4近傍の狭い割合に収束したことは新しい発見であった.エポキシ主剤を統一し,硬化剤に付加重合型,付加重合―触媒混合型の2種類を用いて硬化させたエポキシ硬化物に吸水させた結果,いずれも吸水によるガラス転移温度の低下は二段階であったが,混合型では高温側も低下していたのに対し,付加重合型では高温側は低下しない結果となり,硬化剤の影響が強いことが示唆された. 架橋密度の粗密差の異なる種々のエポキシ樹脂を作製することができ,今後の研究を進める上で重要な結果を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は,ネットワークの疎密差による可塑化の違いを顕在化,疎密差の定量化を試みること,ネットワークの疎密のサイズや分散状態も明らかにすることを目標としていた.ネットワークの粗密差の顕在化,定量化には成功し,根幹の部分は順調に進行した.その一方,粗密サイズや分散状態の明確化はまだ途中であり,達成できていない.この原因として,コロナ感染のため8,9月に実験室が閉鎖されたことが影響している.吸水試験は時間を調整して綿密に行う必要性があり,二ヶ月間研究停止を余儀なくされた.また,これまで使用していた硬化剤の品質の微細な変化により安定して成形物が得られなくなったため,硬化剤の入手ルートや硬化条件の変更に時間をとられることとなった.以上の理由により,予定より若干遅れが生じているが,根幹部分は達成できていること,次年度以後で行う予定であった疲労特性,接着特性の評価を行っており,遅れは限定的である.
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度はコロナウィルスの影響などを受け,少し遅れ気味である.令和3年度に行う予定であった,ネットワーク粗密差の視覚化を行うとともに樹脂の疲労き裂伝ぱ特性の評価を併行して行う.また,新たにネットワーク構造の異なるエポキシ樹脂組成の探索も引き続き行う.令和4年度は,疲労特性およびネットワーク構造の関係について仮説の提案を行うことを目標とする.疲労き裂伝ぱ特性の評価手法は確立されており,可視化のための機器類(平滑面作製装置,ナノ構造分析装置)についても現有装置を使用するため,研究遂行上の大きな問題はないと考えている.
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Causes of Carryover |
令和3年度に予定していた構造観察が,コロナウィルスの影響で行えなかったため,購入予定であった原子間力顕微鏡のカンチレバーの購入をしなかったことが原因である.令和4年度に購入し,研究を行う予定である.
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