2022 Fiscal Year Research-status Report
高輝度放射光による短繊維GFRPのひずみ・結晶化度測定と疲労寿命評価手法の確立
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21K03778
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
清水 憲一 名城大学, 理工学部, 教授 (50294434)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 短繊維GFRP / アニーリング / X線応力測定 / 高輝度放射光 / 繊維方向 / マイクロメカニックス |
Outline of Annual Research Achievements |
PPSをガラス短繊維で強化したGFRPの射出成形平板から,繊維が射出方向に配向した表面層のみの試験片を作成し,引張負荷に伴う母相応力の変化を,sin^2 ψ法の透過法-並傾法によるX線測定で計測した.得られた結果を,繊維配向の分布を考慮したマイクロメカニックスによる解析値と比較し,複合材の弾性定数に及ぼす繊維配向の影響について検討した.以下に得られた主な結果をまとめる. (1) PPSの111,200回折プロファイルから,短繊維GFRPの母相応力がsin^2 ψ法により測定可能であった.母相応力は負荷応力に対して比例的に変化し,比例定数から母相の応力分配係数を決定した. (2) ガラス転移温度以上の温度でアニーリングを行うと,PPS相のX線回折プロファイルピーク強度が上昇し,結晶化度の向上が示唆された.これによってPPSの剛性が向上し,複合材料の射出方向および直交方向いずれのヤング率も向上した. (3) 断面の繊維形状観察から繊維の配向テンソルを求め,繊維配向のばらつきを考慮したマイクロメカニックスによって,複合材の弾性定数を予測した.繊維が完全に一方向に配向した場合の解析値に比べて,より実験値に近い値が得られたことから,この方法の有効性が確認できた. (4) 繊維配向のばらつきを考慮したマイクロメカニックスによって求めた応力分配係数の解析値は,X線測定で得られた実験値に近い値を示し,応力分配係数が正しく評価できることがわかった.今後,複合材の静的強度や疲労強度を,樹脂相の応力に基づいて評価する場合に有効である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
破断時の樹脂相応力をマイクロメカニックスによる解析から評価し,短繊維GFRP(SGFRP)のS-N関係を支配する力学因子について検討し,以下のような結果が得られていることから,当初の予定していた通りの強度評価法が確立できると期待できる. (1) 負荷方向に繊維が配向した試験片(0°材)はPPS単体より高い引張強さを示したが,直交方向に配向した試験片(90°材)は,PPS材より低下した. (2) SGFRPの樹脂相では,負荷方向だけでなく直交方向にも応力が発生することがX線応力測定で検証された.また,負荷応力の増加とともに樹脂相応力が線形的に増加し,破断直前まで繊維と樹脂相のはく離はないと予想される. (3) S-N線図を用いて疲労特性を比較した結果,0°材はPPS材よりも高い疲労強度を示したが,90°材はPPS材よりも低下し,静的な破断強度と同様の傾向を示した. (4) マイクロメカニックスより,静的破断時の樹脂相応力を評価した結果,0°材と90°材は,両者の相当応力はほぼ等しい.しかしPPS材の引張強さに比べると小さく,SGFRPでは樹脂相における応力集中部が破壊強さを低下させる. (5) SGFRPのS-N線図の縦軸を,樹脂相の相当応力とした場合,0°材と90°材のS-N関係はほぼ一致した.さらに,疲労破壊に対して静的破断時の応力集中補正係数を用いて樹脂相応力を評価すると,PPS材のS-N関係ともほぼ一致した.これらのことは,SGFRPの疲労特性が,引張強さと相関することの物理的根拠と考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度では,以下の実験を行う予定である. (1) アニーリングを行った試料を用いて,これまでと同様の静的破断試験と疲労試験による機械的特性の評価を行う. (2) アニーリングを行っていない試料とアニーリング後の試料の結晶化度を,示差走査熱量測定(DSC, Differential Scanning Calorimetry)で測定し,定量的な評価を行う.またつくばの高エネルギー加速器研究機構で高輝度放射光によるX線測定を行い,結晶化度の違いによって生じる回折プロファイルの変化について調べる. (3) 静的あるいは疲労で破壊し,損傷を受けた断面付近の微小領域に対して,高輝度放射光によるX線測定を行う.損傷を受けていない箇所のX線回折プロファイルと比較することで,静的な引張りあるいは繰返し負荷によって結晶化度に変化が現れるかについて検討する, 以上の結果から結晶化度の変化に基づく短繊維GFRPの疲労損傷評価法を確立する.
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