2021 Fiscal Year Research-status Report
刃先近傍の切りくず温度分布のモニタリングによる各種の工具摩耗状態の同時把握
Project/Area Number |
21K03788
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
篠塚 淳 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30282841)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 切削 / 工具摩耗 / 温度 / 切りくず / 赤外線サーモグラフィー / 深層機械学習 / 計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,切削工具の刃先に同時複合的に発達する,すくい面摩耗,逃げ面摩耗,コーナー摩耗,境界摩耗を,深層機械学習による画像認識技術を利用して,切削中の刃先近傍の切りくず裏面(自由表面側)の温度分布の変化だけから把握するシステムの構築を目的とする.工具摩耗が発達するとその箇所の摩擦エネルギが増加するため,切りくず表面の温度分布に何らかの変化を生じるはずである.影響が顕著に表れるすくい面摩耗については,人間が切りくず裏面の刃先近傍の領域を指定し,その領域の温度変化とすくい面摩耗量の変化との相関をとることは可能であるが,刃先近傍の境界摩耗や逃げ面摩耗については,各所の温度分布の変化をみても,すくい面摩耗量の影響が顕著に出るので,独立に抽出することは難しい.そこで,深層機械学習による画像認識技術を利用する.今年度は,主に深層機械学習による工具摩耗量に予測性能について検討した.本システムは,オープンフレームワークであるTensor Flow 2.0を利用し構築している.このシステムにおいて,各畳み込み層における特徴量を抽出するフィルターのサイズや枚数,プーリングのサイズなどを検討し,これらカーネルが特徴量抽出能力に関するケーススタディーを実施した.その結果,畳み込み層の層数が多いほど,さらに,教師データの分散が小さいほど,つまり,教師データのバリエーションが多いほど,特徴量抽出能力が高いくなることが分かった.そこで,工具形状(すくい角やアプローチ角)が異なる2種の工具で,各種摩耗量が異なる12種の新たなデータセットを用意した.赤外線サーモグラフィーでの切りくず裏面の温度分布計測では,これまでレンズ口径が小さく温度の解像度(感度)が低かったので,レンズ口径を大きくしたレンズシステムを構築した.なお,学習データ数が増加すると,これまでのGPUでは容量オーバーになるため,4倍の性能のGPUに交換した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに計測した,すくい面摩耗,逃げ面摩耗,境界摩耗がそれぞれ異なる12種の工具での,旋削中の切りくず温度を開発した赤外線レンズシステムを組み込んだサーモグラフィーカメラにより58フレームレートで動画撮影して得られた10671枚の画像データを用いて深層機械学習システムの予測性能について検討をした.ここで,教師データは12種の工具の中から10種の工具のデータを用い,また,画格等による計測バイアスの影響を取り除くため,画像を上下左右反転させた画像も加えて教師データとした.残りの2種の工具のデータは,予測性能の検討用データとした.まずは,各畳み込み層における特徴量を抽出するフィルターのサイズや枚数,プーリングのサイズなどを各種変えたケーススタディーを実施し,これらカーネルが特徴量抽出能力に関する知見を得たした.その結果,畳み込み層が多いほど予測性能が高くなること,学習データについては分散が小さい程予測性能が高くなることが分かった.そこで,工具すくい角やアプローチ角が異なる工具において,被削材種と切削速度を変えて摩耗試験を実施し,各種摩耗量が異なる工具を12種増やし,今後の教師データのバリエーションを増やした.また,切りくず裏面の温度分布の計測では,これまでの市販品の赤外線用のレンズで構築した温度計測システムでは,口径が小さく解像度が低かったので,口径を増加させた,直径75mmのゲルマニウム製の凸レンズと直径50 mmのゲルマニウム製の凹レンズ単体を特注し,計測システムの温度解像度の向上を図った.深層学習による画像認識システムでは,これまでの計算容量10 GBまでのGPUでは,教師データ数をこれ以上増やせなかったので,40 GBのGPUに交換した.実験や部品の納品などコロナと半導体不足の影響により遅れは出たが,概ね,当初の研究計画の内容を遂行できた.
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Strategy for Future Research Activity |
切削速度を固定し,工具形状や各所の工具摩耗状態が異なる工具での切りくず裏面の温度分布の計測を実施し,教師データをさらに増やして,深層機械学習による各所の摩耗量の予測精度の向上を狙う.同時に,AIが,切りくず裏面の温度分布のどの領域の変化を認識することで,各所の摩耗量の特徴量を抽出しているのか検討し,その論理的な理由について検討をする.
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Causes of Carryover |
本研究の目的遂行のため,赤外線サーモグラフィーの計測温度の感度を向上させるために,これまでよりもレンズの口径を大口径にしたレンズシステムを構築する必要がある.本研究費の予算書作成時点で,ゲルマニウムレンズを特注できる業者数社に,直径75mmのゲルマニウム製の凸レンズと,直径50mmのゲルマニウム製の凹レンズを特注する見積もり書を取ったが,各社とも概ね100~120万円程度(1枚あたり50万円から75万円)の金額であった.そこで,この金額を予算計上したが,実際に特注製作を発注する際になると見積もり額が,当初予算よりも大幅に減額になったため剰余金が出た.剰余金の一部を使って,当初2年目に購入する予定であったGPUボードを先行して購入した.新規購入したGPUボードは,メモリ容量で,これまでの4倍の容量があるが,これでも容量不足することが想定されるので,2年目の令和5年度のGPU購入の予算は計上しておく.
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