2022 Fiscal Year Research-status Report
Improvement of high temperature lubricious properties of low frictional composite films by using reaction of boron and development of machining technology with high efficiency
Project/Area Number |
21K03809
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Research Institution | Aichi Institute of Technology |
Principal Investigator |
神崎 昌郎 愛知工業大学, 工学部, 教授 (20366024)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 高温潤滑性 / 複合膜 / ホウ素 / スパッタリング / 切削加工 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は『工具表面にコーティングしたTiB2+α-MoS2複合膜と切削加工時に供給する窒素との反応により900℃まで潤滑性を有するh-BNを生成させ,それを用いて高効率加工技術を開発すること』である. 研究代表者は,MoS2含有複合膜の開発に取り組み,TiB2+α-MoS2複合膜において無潤滑下における摩擦係数0.01の超低摩擦特性の発現を可能としてきた.これは添加したMoS2による低摩擦の効果に,ホウ素の酸化反応による摩擦最表面におけるB2O3(融点470℃)の生成溶融の効果が複合化したためと考えられる.ただし,600℃以上ではホウ素が脱離消失し摩擦係数は0.8程度まで上昇したため,現状ではTiB2+α-MoS2複合膜を600℃以上の高温状態になり得る切削加工用の工具には適用できない.そこで本研究では,①超低摩擦特性発現に必須のホウ素を600℃以上で残存させる,②ホウ素の反応により低摩擦低摩耗を維持した状態で窒素を供給し,摩擦(加工)時に発生するせん断力を利用して複合膜表面に900℃まで潤滑性を有するh-BNを生成させる,③温度上昇が顕著な切削加工の高効率化(切削速度上昇・切削油供給量削減)にも対応可能なTiB2+α-MoS2複合膜コーテッド工具利用加工技術を開発する,これらを目的とする. 2022年度はDCマグネトロンスパッタリング法によりTiB2+α-MoS2複合膜を創製する際に,TiB2ターゲットに対する印加電力を制御し,ホウ素含有量の異なるTiB2+αを形成した.その結果,TiB2+α-MoS2複合膜において400℃まで摩擦係数0.1以下の超低摩擦特性発現が可能となった. なお,研究の本質的な成果ではないものの,高温摩擦試験機の荷重印加機構の改良およびロードセルとその取付位置を変更し,600℃以上での摩擦特性評価の再現性を高めることが可能となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年4月に研究代表者が東海大学から愛知工業大学に異動し,現在でも研究室学生の教育を通じて研究体制の再構築を行っている最中である.このことが研究を当初の予定通りに進めることができていない理由となっている.本研究の申請時には,東海大学高度物性評価施設にある共用装置(XPS,薄膜XRD,SEM,AFM,微小硬度計等)を活用することにより,本研究に関わるTiB2+α-MoS2複合膜の高性能化に必須の分析・観察・評価が可能と考えていたが,愛知工業大学には共用装置が少ないことも研究の遅れに繋がっている. ただし,2021年度は東海大学で指導していた大学院生のために研究代表者が管理する実験装置を東海大学に残置しなければならなかったが,2022年度にはそれらを愛知工業大学に移設することができ,実験装置上の体制再構築は進みつつある.また,研究の骨格部分であるTiB2+α-MoS2複合膜の創製に関しては愛知工業大学においても知見・経験を積むことができており,研究室全体として本研究に取り組む体制になりつつある.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は2021年度から進めている研究体制の再構築を継続し,TiB2+α-MoS2複合膜の創製および各種の分析・観察・評価を行えるようにする.具体的な一例としては,XPSによる高温摩擦試験前後のTiB2+α-MoS2複合膜表面の組成変化(ホウ素含有量の把握)や化学結合状態の変化を把握する.このことは,高温での超低摩擦特性発現に必要な要件を見出していく上で極めて重要であるが,愛知工業大学にはXPS装置がないため,利用可能な研究機関等との共同研究の実施が必要と考えている. このような研究体制の再構築の継続と並行して,400℃(2022年度における超低摩擦特性発現の上限温度)以上での超低摩擦特性発現を目指して,高結晶性TiB2+α-MoS2複合膜の創製に取り組む.複合膜の高結晶化により化学的結合が強化され,高温下での摩擦表面において超低摩擦特性発現に必須のホウ素の脱離消失を抑制できると考えられる.高結晶化の方策としてはDCマグネトロンスパッタリング法によるTiB2+α-MoS2複合膜創製時にバイアス電圧(0~-300V)を印加する.XRD法により結晶性を評価するとともに,創製したTiB2+α-MoS2複合膜を大気中で加熱し,XPS等による表面の組成分析の結果から,高温でのホウ素の残存に適切なホウ素含有量およびバイアス電圧を決定する. また,900℃までの潤滑性付与を念頭に置き,高温摩擦環境下(せん断応力発生状態)におけるTiB2+α-MoS2複合膜表面でのh-BN生成に関する実験に着手する.具体的には,高温摩擦試験における窒素の供給量・供給開始温度・供給位置等をパラメーターとして実験を行い,h-BN生成に関する知見を蓄積していく予定である.
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Causes of Carryover |
2021年4月の研究代表者の異動により研究の遂行にまだ遅れが残っているが,高温潤滑性を有するTiB2+α-MoS2複合膜の創製およびその評価の本格的再開の体制が整いつつある.2022年度の研究遂行の中で,高温摩擦試験機の改良や成膜時に使用するターゲット購入に予算を充て,計画的に執行できた.その中でもわずかに予算が残り,研究全体を考えて有効利用するために次年度予算に回すこととした. 次年度使用額の28,918円に関しては,複合膜創製用ターゲット等の実験消耗品の購入に使用する予定である.
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