2021 Fiscal Year Research-status Report
樹脂歯車の運転試験時の形状偏差ネットワークの時間推移と歯元き裂の予兆検知
Project/Area Number |
21K03835
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
射場 大輔 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (10402984)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 樹脂歯車 / 損傷予兆検知 / 磨耗 / 歯形勾配偏差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では樹脂歯車の状態を表す諸量,特に,歯元のき裂発生前に現れる歯面摩耗や歯の倒れに伴う形状変化とかみ合い振動に関連する情報を回収して解析し,それらの関係を明らかにすることを目的としている.さらに,回収・解析した情報に歯車の特性を考慮した前処理を施して学習用データセットを創生し,深層構造を持つ人工知能に学習させることで歯車の振動情報のみから歯元き裂発生の「予兆」検知が可能であるか検証する. 初年度は,ポリアセタール(POM)製歯車の運転試験を実施し,かみ合い回数の増加とともに変化する歯形形状の測定を歯車測定機により実施した.運転試験の条件として,1.高トルク・低回転速度,2.低トルク・高回転速度,3.中トルク・中回転速度を用意し,歯の倒れが進む実験と歯面の摩耗が進む実験,そしてその中間の実験を実施した.それぞれの運転試験においてかみ合い回数を五段階に分けて試験を実施し,かみ合い回数の増加とともに変化する歯形形状を計測した.計測したデータについて,歯の倒れについては,相手歯車とかみ合っていない非作用歯面側の歯形偏差データを利用して歯形勾配偏差を評価した.歯面の磨耗については作用歯面の歯形偏差データの歯先からピッチ点近傍までのデータは用いずに,ピッチ点から歯元側の歯形偏差データにおいて歯元側の測定開始点とピッチ点を運転開始前に測定したデータと一致させた後に,両歯形偏差曲線で囲まれた面積に歯幅を乗じることで求めた体積の全歯の総和から密度を考慮して導出した質量が,電子天秤で測定した質量の損失分と定性的にも定量的にも良く一致することが確認でき,磨耗量の定量化に利用できることがわかった.さらに,計測した各歯の歯形・歯すじ偏差データから相関係数を求め,各歯をノード,そして相関係数を重みとする偏差ネットワークを導出する方法を提案した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
令和3年度の研究は,1.樹脂歯車の運転試験と歯車測定機による歯形形状測定,2.歯形形状の変化要因(歯の倒れと歯面磨耗)の分離,の実施を計画していた.研究実績の概要に述べたように,複数の運転条件を設定し,歯の倒れと歯面摩耗が進む実験をかみ合い回数を五段階に分けて実施することができ,その運転試験中の温度・かみ合い振動の計測及び,試験前後の歯形歯すじ偏差を歯車測定機によって測定することにより,今後の研究の推進に必要な基礎データの収集が計画通りに行えた.また,測定された歯形偏差データより,非作用歯面から歯の倒れを定量化する方法を提案し,作用歯面の一部のデータを用いることで歯面の磨耗量を推定する方法の提案を行った.磨耗量の推定結果は直接,質量の計測より得られた摩耗量と一致し,形状偏差データから磨耗量を推定する方法が有効であることがわかった.この方法を利用することによって,運転試験中に吸収した水分を長時間乾燥させる手順が省くことができ,また,全体としての摩耗量のみならず,個々の歯面の磨耗量を計算できることになり,歯車全体で均一になっていない摩耗量の偏りが評価できるようになった.こうした偏りはかみ合い振動特性に現れる可能性があり,今後の研究においてかみ合い振動解析をする際の指標として利用できると考えられる. さらに,次年度の研究実施計画に挙げている,3.歯形形状の変化量のネットワーク理論による解析と定量化,に向けて測定された歯車の個々の歯の形状偏差間の相関関係を計算する方法を確立し,その相関係数を利用した歯車の歯形・歯すじ偏差ネットワークを提案することが可能となり,当初の計画より進んだ結果が得られたことから,自己評価においても(1)当初の計画以上に進展している,を選択することとなった.
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は,測定して定量化した歯車の各歯の歯の倒れや歯面磨耗量をネットワーク化する.準備として歯形・歯すじ偏差のデータをネットワーク化してきたが,その考え方を導入することで,各歯をノード(結束点),各歯間の倒れの差や磨耗量の差を相関情報としてエッジ(辺)を構成し,ノード間を相互接続することで歯車の歯の倒れ及び磨耗ネットワークを導出する.これまでの歯形形状を評価するJIS規格では,歯すじ・歯形・ピッチ偏差情報を個別に評価することは可能でも,歯車形状の全体を俯瞰しながら歯形形状を評価することができなかった.歯形偏差から構成した歯の倒れ及び歯面磨耗ネットワークを導出することで,円周上に分布した各歯において運転時間の経過とともに様々な要因で進んでいく歯面の摩耗,歯の倒れによる形状変化を,歯車全体を俯瞰しながら追跡できる評価指標の導出を試みる. また,樹脂歯車の変形に伴って変化するかみ合い振動を表現する時変調和振動モデルの提案を行う.一定トルク・回転速度で樹脂歯車が回転すると仮定すれば,その歯形・歯すじ・ピッチの変化に伴い,かみ合い振動の振幅と周波数が一回転内で変化することになる.そこで,偏差ネットワークから歯車の全体形状を俯瞰して定量化された変形量を考慮して振幅と周波数が変化する調和振動としてかみ合い振動をモデル化し,運転時間の短長に依存する歯車の変形量に伴う振動の変化を表現する. さらに,取得した運転試験における振動データに,歯の倒れ及び歯面磨耗ネットワークから抽出した形状変化の指標をラベルとして与え,人工知能の学習用のデータを構成する.そしてかみ合い振動から周波数成分の振幅と位相情報をグレースケール画像に変換し,画像認識用の人工知能に学習させることを試みる.
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