2021 Fiscal Year Research-status Report
ソフトな潤滑膜のダイナミクス解明が開拓する潤滑特性の制御
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21K03844
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Research Institution | Ichinoseki National College of Technology |
Principal Investigator |
滝渡 幸治 一関工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (70633353)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | トライボロジー / その場観察 / 赤外分光法 / ゲル / トラクション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、有機物添加剤が形成するソフトな潤滑膜のダイナミクスを解析し、その解析結果に基づき新規潤滑法を提案するものである。今年度は、主に赤外分光法を用いるその場観察法を用いて、潤滑膜の構造を直接捉え潤滑特性との関係を調べた。有機物添加剤には油性剤のほかアミド化合物を用いた。それぞれを添加することで液状あるいは半固体状の潤滑剤を調整し、その潤滑膜構造を調べた。特に半固体状の場合は、2相系のため潤滑膜の構造が複雑である。先行研究としてグリースが形成する潤滑膜の解析では、その場観察による潤滑膜の直接観察が行われてきた。光干渉法を用いる潤滑膜厚さのその場観察では、低引き込み速度で潤滑膜が厚くなることが分かっている。また、化学分析を用いる成分濃度のその場観察では、接触域の中心で増ちょう剤の濃度が高くなることが分かっており、潤滑膜厚さに影響を及ぼすと考えられる。 今年度は主に潤滑膜の組成や膜厚の変化、添加剤や基油の影響に関する次の知見が得られた。①低引き込み速度において、添加剤(アミド化合物)が接触域に導入されることで潤滑膜が厚くなる。②アミド化合物を添加した潤滑剤はウレア化合物を添加した潤滑剤に比べてトラクション係数が低い(すべり率0.4で3割減)。③接触域の添加剤濃度には基油の極性が影響する。以上の結果から、アミド化合物やウレア化合物が接触域に導入されると、潤滑膜が厚くなることが分かった。 対外発表としてはグリースなどの半固体潤滑剤の潤滑膜について、その場観察の事例をまとめた記事を発表した。光干渉法や赤外分光法、蛍光法などを用いた事例について、得られる情報や特徴、そして装置構成について解説した。また、学会発表として油性剤を添加した潤滑剤の潤滑膜構造と潤滑特性について発表を行った。油性剤濃度が接触域近傍で低下し、粘度が変わることでトラクション特性に影響を及ぼすことを報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は現有の赤外分光法やラマン分光法を用いてその場観察を行い、潤滑膜厚さと添加剤濃度のしゅう動条件依存を確認し、トラクション特性への影響についてデータを集めた。試料には先行研究を基に基油と添加剤を選定した。基油には、無極性と極性の合成炭化水素油で粘度が同程度のものを用いた。添加剤には、ウレア化合物とアミド化合物を数種類用いた。添加剤を12~20 mass%の濃度で基油に加えて調製し潤滑剤とした。潤滑状態のその場観察試験では、顕微FTIRとボールオンディスク型潤滑試験機を組み合わせた装置を用いた。ボールとディスクには、高炭素クロム鋼(SUJ-2)製のボールとサファイアディスクをそれぞれ使用した。潤滑剤をディスクに塗布し回転させることで、潤滑膜を形成させた。そしてその潤滑膜について、顕微FTIRを用いてIRスペクトルを測定した。測定位置は接触域の中心とした。また、トラクション係数を測定した。 潤滑膜のIRスペクトルから基油および添加剤由来のピークを確認し、ピークの面積強度から検量線を作成して、潤滑膜の厚さと添加剤濃度を算出した。基油に無極性の炭化水素油を用いたとき、ウレア化合物を添加した試料と炭化水素鎖に不飽和結合を含まないアミド化合物を添加した試料では、引き込み速度が低くなると膜が厚く添加剤濃度が高くなった(80mass%以上)。また、ウレア化合物を添加した試料はトラクション係数が高く、アミド化合物を添加した試料ではトラクション係数が低い傾向が見られた。特に添加剤が接触域に導入されない試料は基油と同程度のトラクション係数となった。 アミド化合物やウレア化合物を添加した試料について、潤滑膜構造とトラクション特性との間に相関が確認され、さらにアミド化合物と基油との種類による有意差が確認された。今後は、潤滑膜の詳細な解析と共に潤滑メカニズム解明に向けて取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はトラクション特性と潤滑膜構造の関係についてより詳細に検討するため、潤滑膜の構造についてバルクの構造から界面近傍の構造にかけて調べる。バルクの構造を調べる手法と結果の傾向は今年度に把握できていると考えており、次年度以降は特異な結果を示した系について追加実験を行う。界面近傍の潤滑膜構造については、全反射法を用いるその場観察を用いて行う予定である。全反射法では潤滑界面近傍の情報を得るために、全反射用プリズムの摩耗による測定誤差の影響が懸念される。当初は新規潤滑試験機の製作を考えていたが部品価格の高騰により進路転換し、昨年度購入した膜厚計測装置と潤滑剤供給機構を現有の装置に加えることで全反射用プリズムの摩耗を抑え安定なデータを取得することを考えている。さらに、赤外分光法等に対する水分の影響をできる限り除去するために、窒素パージ機構の追加も検討している。これらが実現できれば潤滑界面における境界膜の形成および破壊過程が確認でき、より詳細な検討が可能になると考えている。しゅう動条件(荷重やすべり率)を変えたときの潤滑膜構造の経時変化(過渡応答)を直接捉える。潤滑膜の形成と破壊過程を明らかにすることで、定常状態における潤滑膜構造を解析し、潤滑特性との関係を明らかにする。その後は、添加剤と基油分子間およびしゅう動表面との相互作用による潤滑膜構造の変化を整理する。さらに相互作用でソフトな潤滑膜を形成し、低摩擦を発現する新規潤滑剤創成への応用を行う。
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Causes of Carryover |
当初は装置の製作と購入を検討していたが、部品の高騰のため見積額が大きく(@3,000千円以上)納期にかなりの期間(2年以上)を要することからに断念した。その代替案として必要な部品を購入して既存の装置を改造することとなったため、今年度は部品の購入が合計で700千円程に留まり次年度使用額が生じた。 次年度使用額の使い道としては、改造に伴う追加の部品購入や研究の進行に伴い必要となった新規装置の購入に充てることを計画している。 (1)設備備品:窒素発生装置820千円、オイルバス製作270千円、チューブポンプ70千円、ホモジナイザー60千円(2)国内旅費:学会発表(福井)80千円、打ち合わせ(盛岡)計50千円、(3)消耗品:全反射プリズム250千円、試薬類50千円、有機溶剤30千円
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