2021 Fiscal Year Research-status Report
任意の温度分布を持つ壁面間のマイクロ潤滑モデルの分子論的研究
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21K03877
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
土井 俊行 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (00227688)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 分子気体力学 / マイクロ潤滑 / 平均自由行程 / 曲率 |
Outline of Annual Research Achievements |
狭い隙間の潤滑問題において潤滑方程式を導くときの指導原理となるのは、隙間が一様でなくても曲がっていても、隙間のスケールで見るとほとんど平行平板流路に見えるので、局所的に平行流の近似が使えるということである。連続体流体においては、この事実のおかげで潤滑方程式が容易に導かれ、成功を収めてきた。ところが、隙間が気体分子の平均自由行程程度よりも小さいマイクロ潤滑においては、注意が必要である。それは、気体分子は平均自由行程程度の距離を自由に運動するため、隙間のスケールよりも遠くからやって来る分子の効果が無視できないためである。これが原因となり、マイクロスケールの潤滑では、局所的平行流の仮定を用いた従来の潤滑理論をそのまま用いると、流路の小さい曲率が思いがけない近似誤差をもたらす可能性がある。本研究では、気体分子運動論の基礎方程式であるボルツマン方程式に基づく漸近解析により、マイクロスケールの気体潤滑流れを解析した。同時に、ボルツマン方程式の4次元相空間における直接数値解析を行い、従来及び本研究による新しい潤滑理論を検証する標準解を作った。得られた結果は次のとおりである。 (1)内円筒半径に対する隙間の比を無次元曲率と呼ぼう。気体の平均自由行程が隙間に比べて十分大きいときには、従来の局所的平行流の仮定に基づく分子気体潤滑方程式は、無次元曲率の平方根程度の無視できない誤差を生じることを理論的に解明し、また数値実験を用いてデモンストレーションした。 (2)上述の注意点を吟味して、欠点を克服した新しい潤滑方程式を導いた。この方程式は平均自由行程の全範囲でボルツマン方程式の解を一様に近似することを実証した。 以上の結果は、本研究課題で当初予定していたものをはるかに上回る内容の成果である。この成果を論文にまとめて報告した。論文はPhysical Review誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020年度から研究にとりかかっていたことと、2017年度に研究代表者が開発した数値計算コードが大変役に立ったことが原因と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究は、分子気体潤滑におよぼす小さな曲率の影響を理論的に解明することが目的であった。解析を完全にする必要があったため、同心円筒間という特殊な問題を取り扱った。一方、実際の潤滑問題では、円筒間の偏心による潤滑効果が応用上重要である。そこで令和4年度は、前年度で得た知見を基に、偏心2円筒間のマイクロスケール気体潤滑問題を取り上げる。前年度の研究を踏襲し、直交曲線座標系で書かれたボルツマン方程式の漸近解析を行う。また、同じボルツマン方程式の直接数値解析を行って検証のための標準解を作る。潤滑方程式を検証するとともに、偏心系において小さな曲率がもたらす効果をデモンストレーションする。
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Causes of Carryover |
論文をオープンアクセスにする予定で予算を残していたが、論文が受理されたとき(2022.3)、科学研究費が支払い不可能時期であったため、オープンアクセスにできなかった。出版から1か月以上経ってしまったが、もし現在でもオープンアクセス化可能ならば、そのようにしたい。
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