2022 Fiscal Year Research-status Report
強弱乱流の遷移領域での実空間および波数空間の局所非等方エネルギー輸送機構の解明
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21K03883
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
横山 直人 東京電機大学, 工学部, 教授 (80512730)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高岡 正憲 同志社大学, 理工学部, 教授 (20236186)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 強弱乱流 / 非等方エネルギー輸送 / 準地衡流乱流 / 臨界平衡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Charney-Hasegawa-Mima(CHM)方程式に従う準地衡流乱流において、我々の提案する波数空間における局所フラックスベクトルの同定方法を、エネルギー、エンストロフィ、ゾノストロフィの正定値2次の(準)保存量に対して適用し、大規模構造の生成維持機構とエネルギー輸送の関係を定量的に調べた。この系は、帯状流と呼ばれる系の特徴的な方向に一様な流れと低波数(大スケール)領域の非等方性の強い波動、高波数(小スケール)領域の統計的に等方な渦によって構成される2次元非等方異種共存乱流である。 エネルギーやゾノストロフィの局所フラックスベクトルは、高波数から低波数へ等方的に逆カスケードした後、波数の絶対値がラインズ波数の大きさ程度まで小さくなると向きを変え、帯状流へのエネルギー輸送を示した。また、ラインズ波数よりも小波数領域にある、ロスビー波の周期より短い特性時間を持つ渦も同様に、ラインズ波数と同程度の絶対値の波数に沿って帯状流へと至るエネルギー輸送を示した。critical balance(臨界平衡)は、波動と渦の時間スケールが一致する波数に沿ったエネルギーフラックスを予想し、この波数は準地衡流乱流では2次元波数空間内のダンベル形状となる。一方、局所フラックスベクトルは、ラインズ波数と同程度の絶対値を持つ波数、すなわち、円周状のフラックスを示した。このことは、波動乱流と渦乱流の間のエネルギー輸送を予想した臨界平衡を定性的には支持するものだが、定量的には、臨界平衡と局所フラックスベクトルとでは異なる波数領域での強いエネルギー輸送を示す結果となった。 これらの結果を2件の国際会議を含む国内外の会議で発表し、学術論文として投稿する準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
非等方乱流では、非等方性の強い大規模構造・波動と比較的等方な渦を構成要素とする、種類の異なる乱流が共存する。これまで異種乱流間のエネルギー輸送は、臨界平衡と呼ばれる定性的な予想があるのみであった。我々は、局所性と最小作用の原理の2つの仮説の下にエネルギーフラックスのベクトル表現を提案し、異種乱流間のエネルギー輸送を定量的に評価することを可能にしたが、その仮説の妥当性は未解決であった。この妥当性を、Navier-Stokes方程式などの基礎方程式から厳密に導き出された実空間のエネルギーフラックスベクトルの表式と比較することにより検証することが本研究課題の目的である。 本年度までの結果によって、波数空間におけるエネルギーおよびその他のフラックスは臨界平衡の予想と定性的には概ね合致するが、定量的には臨界平衡のエネルギーフラックスが観測される波数領域が波動と渦の時間スケールが一致する波数でないことを示した。これらの結果は、大規模シミュレーションが可能である2次元系のCHM方程式に支配される準地衡流乱流で明らかとなった。 概ね順調に進んでいる波数空間のエネルギーフラックスの定量的評価と比較すると、実空間の3次相関を用いたエネルギーフラックスの評価および実空間と波数空間のエネルギーフラックスの比較の進捗は遅れている。これは、様々な時空間スケールの混在する実空間の物理量を用いて統計的有意差を得るために、現在行っている大規模シミュレーションにおいて長時間平均が必要なためである。 これらの理由から、現在の進捗状況は当初の計画からやや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況に書いたように、波数空間のエネルギーフラックスの定量的評価は概ね順調に進んでいる一方で、実空間の3次相関を用いたエネルギーフラックスの評価および実空間と波数空間のエネルギーフラックスの比較は遅れている。 今後は現在行っている大規模シミュレーションを継続し、実空間の3次相関を得るために長時間の計算を行う。この計算は、3次元系である回転乱流や成層乱流の大規模シミュレーションを休止し、長時間計算が相対的に容易な2次元系であり、波数空間での臨界平衡波数域でのエネルギーフラックスの挙動が明確になった準地衡流乱流を優先して行う。準地衡流乱流で、統計的に困難があるが厳密に定式化できる実空間のエネルギーフラックスと、統計的には比較的容易であるが2つの強い仮説によって初めて一意に定められる波数空間のエネルギーフラックスを比較する。準地衡流乱流において、統計的に有意な程度まで実空間の3次相関を用いたエネルギーフラックスを数値的に得られた後、3次元乱流である回転乱流や成層乱流の大規模シミュレーションを再開し、これらの3次元系において実空間と波数空間のエネルギーフラックスの比較を行う。 これら個々の系において、実空間と波数空間の双対性に基づき臨界平衡波数域でのエネルギーフラックスの挙動を定量的に評価し、臨界平衡との比較とその修正を行い、さらに非等方乱流における異種乱流間のエネルギー輸送の統一的な視点を与える理論を確立する。これらの結果を学術論文や国際会議において積極的に公表するととともに、次年度が最終年度となる本研究課題の取りまとめを行う。
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Causes of Carryover |
本年度は国内外の会議への旅費を計上していたが、COVID-19の長期化によりこれらへの出席を一部取りやめた。また、対面で予定していた研究打ち合わせをオンラインで行った。これらのための旅費が不要となったため次年度に使用することにした。また、本年度の円安や半導体供給不足により価格が高騰していたため、予算計上していた計算サーバの購入を次年度へ先送りした。 本年度後半より出張に対する制限が緩和されたため、これらの費用を国際会議へ参加登録費や出張旅費に使用する。実際、国内開催を含む4件の国際会議への参加・発表がすでに決定している。これらの国際会議での発表により、本課題での大きな成果の一つである波数空間でのエネルギーフラックスベクトルの有効性を広く公表する機会とする。また、価格高騰が解消傾向にある計算サーバを購入し、特に進捗の遅れている実空間のエネルギーフラックスの構造の同定を加速し、次年度が最終年度となる本研究課題を完了させる。
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Research Products
(4 results)