2023 Fiscal Year Research-status Report
揚・抗力型ハイブリッドによる高出力・高稼働率垂直軸風車のフィージビリティスタディ
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21K03887
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Research Institution | Kurume National College of Technology |
Principal Investigator |
谷野 忠和 久留米工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (70352367)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 再生可能エネルギー / 自然エネルギー / 風力エネルギー / 垂直軸風車 / 中・小規模風力発電 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は,同軸上に2つの異なる作動原理の羽根車,それぞれ外側に揚力型羽根車,内側に抗力型羽根車を互いに反転させて組み合わせるハイブリッド垂直軸風車を提案し,その可能性について,実験および数値解析による検討を行うものである。 3年目の実施計画の1つは,これまでに明らかになった課題である,ハイブリッド垂直軸風車の小規模実験での精度改善である。すなわち,外側・内側の2つの羽根車が互いに反転して作動するため,軸周りの構造が複雑となるにも関わらず,供試模型(直径約170mm)は小さいため,出力性能試験の測定データにばらつきがあった。その改善のため,供試風車の2つ羽根車それぞれの軸を同軸上で相互に支持し合う軸系のさらなる改善,加えて,供試風車のスケールアップも検討し,その効果を調べた。特に,これまでの課題として外側・内側の各羽根車の出力性能を評価する実験において,外側可変・内側固定回転数の場合と,逆の内側可変・外側固定回転数の場合とでみられた,各羽根車の出力係数値のずれは,直径を1.25倍にスケールアップし軸系も改善した供試風車を用いたところ,その食い違いは明らかに改善され,適切に両羽根車の性能を評価できるようになった。 もう1つの計画は,出力性能と流れ場との関係の把握である。そのために,これまで供試風車の2次元モデルによる数値解析を行ったが,外側揚力型羽根車の出力性能は実験と異なっていた。この定量的評価の改善を検討したがまだ不十分な状況である。そこで,これに代わる新たな検討として,煙線による可視化実験を計画した。そのための供試ハイブリッド垂直軸風車および煙線発生装置等を検討・製作し,想定より早く供試風車の可視化実験まで実施できた。可視化実験により,内側羽根車の有無それぞれの外側羽根車周辺の流れが捉えられ,本ハイブリッド垂直軸風車の流れと性能との関係を考察できるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験的検討において,申請時に困難を想定した点は,外側に揚力型風車羽根車,内側に抗力型風車羽根車を組み合わせた供試風車の製作である。これら2つの羽根車の回転軸は同軸線上にあり,各々が独立した異なる回転数で互いに反転して作動する構造である。そのため,供試風車の羽根車内には2つの回転軸があり羽根車両端から突出する回転軸はそれぞれ異なる。一方は外側羽根車のみ,もう一方は内側羽根車のみに接続される。したがって,各羽根車の一端は自身を回転させる軸に,もう一端は軸受けを介して他方の羽根車の回転軸に支持される。1,2年目で3Dプリンタの活用により供試風車は計画よりも早く製作できたが,小規模実験故に出力性能試験の再現性・精度が課題となり,3年目は供試風車の改良,さらにスケールアップの検討を行った。実績概要にも述べた通り,特にスケールアップにより出力性能試験の精度の問題が解決でき,ハイブリッド垂直軸風車を構成する外側羽根車,内側羽根車のより適切な性能評価ができるようになった。 一方の申請時に計画した風車性能と流れ場との関係の把握を目的とした数値解析については,特に外側揚力型羽根車の性能が,定性的な傾向は把握できるが,定量的には実験結果との差が明らかであり,解析手法など継続的な検討を行ったが十分な結果に至っていない。そのため,残り期間は限られるが,煙線による可視化実験での流れ場把握を計画した。煙線可視化装置および可視化用供試風車はゼロからの製作であったが,くし形ノズルなども3Dプリンタを活用し,想定より短期間で製作できた。年内には可視化実験も行える状況を整え,ハイブリッド垂直軸風車の外側羽根車周りの流れを対象に,内側羽根車の有無の違いを比較する流れ場撮影実験まで実施でき,当初の数値解析による流れ場把握に代わる結果が得られた。以上の進捗状況から,研究全体としてはおおむね順調と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目までに,新たに提案する外側に揚力型直線翼風車,内側に抗力型クロスフロー風車を同軸上に互いに反転させて組み合わせて利用する揚・抗力型ハイブリッド垂直軸風車について,3年間で供試風車および出力性能試験装置の製作,出力性能実験による性能評価までを実施することができた。ただし,進捗状況にも述べた通り,流れ場の把握については,数値解析による流れ場解析を計画していたが定量的な評価の点で十分な結果に至らなかったため,3年目に煙線流脈法による流れ場の可視化実験に計画を変更した。可視化実験による流れ場の把握についても,煙線可視化装置および供試風車模型の製作,さらには,可視化実験まで実施することができた。 ただし,本申請研究は,3年間で以上の結果を纏め,総括する研究計画であったが,上述の通り,流れ場の把握のための計画変更などにより最後の纏め,総括に遅れが生じている。すなわち,現在までの成果として,提案する揚・抗力型ハイブリッド垂直軸風車について,出力性能試験および起動特性試験による風車性能と,煙線可視化実験による流れ場それぞれの結果は得られたが,性能と流れ場との関係について考察し,本ハイブリッド垂直軸風車の実現可能性を考察・評価ができていない。したがって,延長した4年目は,これまでに得られたハイブリッド垂直軸風車の性能と流れ場との関係の考察とともに,本風車の実現可能性についても考察し,最終成果として研究結果を纏め,総括する計画である。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況は,風車の流れ場の把握について数値解析から煙線可視化実験への計画変更があったが,おおむね順調に進展している。その中で次年度使用額が生じた理由は,2年目に生じた繰越額に伴うものである。すなわち,予算計上した旅費がコロナ禍の影響により参加した学会講演会がオンライン開催となったこと,その他,提案する揚・抗力型ハイブリッド供試風車模型および出力性能試験,可視化実験に必要な試験装置の製作費が低く抑えられたためである。本申請では,研究概要にも述べた通り,2つの羽根車を有する供試風車模型の出力性能を把握するための実験装置を新たに設計・製作する必要があり,特に,2つの羽根車それぞれのトルク・回転数が計測できる構造の供試風車模型の製作には,かなりの試行錯誤を想定し,予算申請時に十分な試作製作費を申請した。しかし,3Dプリンタが想定より稼働が安定し試作エラーが少なく済んだ。 また,予算計上した羽根車2つ分のトルク・回転計は,他研究で使用のトルク・回転計1セットの共用化を図り節約できた。これらの理由で,2年目の費用を抑えられ,3年目にも引き継がれたため,次年度に使用額が生じた。 繰り越し相当額(約36万円)については,3年目の計画変更で実施した可視化実験で,多くの可視化動画データが得られたため,これらの編集・整理のための機器類や,研究結果を纏めて得られる成果の発表等に使用する計画である。
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