2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K03894
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
廣瀬 裕二 千葉大学, 大学院工学研究院, 助教 (60400991)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ゾル=ゲル転移 / 振盪ゲル / 保温材 / ナノシリカ / 微粒子分散系 / 三次元網目 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではナノシリカ粒子を分子量の大きなポリエチレングリコール(PEG)の水溶液に加え分散させた混合系は振盪によりゲル化し、その後静置するとゾルに戻る「振盪ゲル」において、ゲル状態を長時間維持し新規保温材として開発することを目指している。 平均分子量400万のPEGを用いることである程度ゲル状態を長くすることができていたが、今回従来用いていた粒径11 nmのシリカに代わり、18 nmのものを用いることで大幅にゲル状態を長時間保つことができることを見出した。具体的に40℃においてPEG 0.2 wt%、シリカ15 wt%の組成では、粒径11 nmの試料が100秒程度でゾルに戻ったのに対し、粒径18 nmのものでは2時間以上ゲル状態を維持した。 振盪ゲルは静置した際に熱運動で分子鎖が脱着することでゾル状態に戻るが、シリカ粒径が大きくなると粒子1個当たりの表面積も大きくなり、PEG分子鎖が吸着可能な点も増える。複数のPEG分子鎖が1個の粒子に吸着した後、そのほとんどが同時に脱着して三次元網目が消失するためには分子鎖の数が増えるほど時間を要すると予想され、これが長時間ゲル状態を維持した要因と考えられる。 さらにこの試料を加熱後に恒温槽で冷却しつつ温度を測定したところ、ゲル化させた試料はより長時間高温を維持した。昨年度の11 nmシリカを用いた試料では、ゲル化させた方がゾルに戻る際に流動が発生して逆に短時間で温度が低下したが、18 nmシリカによりこの問題を解決することができた。 一方、ゲルを形成する高分子として知られる4本の分枝構造を持つtetra-PEGを添加した場合では、逆にゲル状態を保つ時間が短くなった。これは分子量の小さな直鎖PEGを加えた場合と同様であったことから、tetra-PEGによる三次元網目の形成効果は小さいと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初はゲル状態の維持時間を延長するために、特殊な構造を有するPEG分子鎖試料を用いるといった方法を予定していたが、シリカ粒径を大きくするという、簡便かつ特殊なものを使わず試料価格も抑制できる手法により、60℃程度でも数十分程度ゲル状態を維持するなど、保温材として使用できる性能を達成することができ、目標を達成することができた。 この試料500 gをガラス瓶に入れて50℃に保持したのち、振盪して20℃の恒温槽に移し替え20分置いたところ、試料中心部付近の温度はおよそ40℃となった。同じ資料において振盪しなかったゾル状態で同じ測定をしたところ約25℃まで低下したことから、保温効果を確認することができた。 一方で特殊な構造、分枝構造を有するtetra-PEG分子を添加した場合には、そのゲル化を促進する作用は確認できなかった。tetra-PEGは高価であることから、組成、分子量等を変化させることで振盪ゲルとしての特性を発揮できたとしても実用・製品化に難があると考えられることから、tetra-PEGの研究は少しに留め、安価な粒径18 nmシリカを用いた試料の測定を優先した。
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Strategy for Future Research Activity |
先に述べた通り比較的簡便な手法で長時間ゲル状態を保つ振盪ゲル試料を調整するという目標が達成できたことから、今年度は繰り越しとなった予算で精度高く熱流束・熱伝導率を測定することを目指す。具体的には試料に温度勾配を与えられるように恒温槽およびアクリル等の枠を設置し、片側に熱流計を組み合わせた装置の組み立てを行う。試料側面からの放熱など、測定値を変化させる要素を極力減らすため、断熱材も併用する。振盪させてゲル化させた試料と、振盪させずにゾル状態のままとした試料による違いを、印加する温度勾配別にとらえることで振盪ゲル試料の保温材としての有用性を示したい。 ほかゾル状態とゲル状態、およびその状態変化発生中の比熱変化を、示差熱熱量計を用いて測定することを試みる。いずれの場合も試料の組成、粒子サイズ、高分子分子量などのパラメーターによって変化が生じるかを検証する予定である。 さらに振盪ゲルに蓄熱材粒子を加えることで輸送可能エネルギーを増大させた試料についても流動・熱特性を調べる。具体的には安価で融点が60度前後と振盪ゲル試料がゲル状態を示す温度範囲内にあり、潜熱蓄熱材としても使用されるパラフィンを考えている。このほか予算、期間に余裕があればtetra-PEG以外の高分子試料を用いた際の流動、熱特性についても調べたい。
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Causes of Carryover |
振盪ゲルを保温材として実用化するにあたり、ゲル状態の保持時間の延長という当初からの課題を、先に述べた通り粒子サイズを大きくするという簡便な手法により解決することができたため、当初計画していた高価な試料を用いた内容については少量にとどめた。 これに加え、試料に複数の熱電対を差し込んだガラス瓶を恒温槽に入れて温度を測定することでゲル化させた試料の保温・保冷効果や、ゾル状態の試料が短時間で温熱・冷熱を蓄熱可能という、当初から期待していた振盪ゲルの特性を確認することができた一方で、温度測定の手法が簡便であり、定量的な評価が難しいことから、今年度予定している熱流束、熱伝導率の測定では極力正確にこれらを測定して定量的な評価を可能とするため、熱流計に加え外部からの熱移動を極力減らすための断熱や、温熱・冷熱を印加する際の装置について現在検討中である。
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