2022 Fiscal Year Research-status Report
Constructive approach to neural basis for predictive control of gait and posture
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21K03932
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
舩戸 徹郎 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (40512869)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳原 大 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (90252725)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 姿勢制御 / 予期的姿勢調節 / 小脳 / 学習 / モデル予測制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトや動物は直立や歩行中に将来の自己の状態を予測して動作を生成する。予測動作の生成には自己の身体内部モデルに基づく予測が必要である。内部モデルは自身の運動状態を表すモデルであり、生物はこのモデルを学習的に獲得する。本研究では、このような姿勢制御・運動制御における予測制御系の原理解明を目指して、予測制御系および内部モデルの学習系のモデル構築と動物の神経系における予測制御機構の原理に迫る研究を行っている。本年度は(1)直立中のヒトの予測外乱実験と力学モデルによる予測的姿勢制御原理の評価、(2)小脳に障害を持つラットを対象とした予測外乱実験による予測に関わる小脳領域の検証、を行い、以下の研究成果を得た。 (1)直立中のヒトに対して、音を与えた後に傾斜外乱を与える予測外乱環境に対する応答を調べたところ、十分経験した後では、傾斜外乱前に腓腹筋の活動予測的な活動が見られる被験者と見られない被験者が表れ、いずれの被験者においても学習後に傾斜に対する重心変動が減少した。筋骨格モデルとモデル予測制御によってモデル化をし、予測的活動がどのような制御原理によって生じたのかを力学シミュレーションによって検証した。その結果、モデル予測制御による力学モデルは、ヒトの予測的な筋活動を再現できること、さらに、共収縮の大きさを変えることによって、予測的な筋活動が見られる制御と見られない制御の両方を説明できることを示した。 (2)姿勢制御関わる小脳領域である小脳虫部の局所領域に吸引除去及び薬理学的な処理の2つの方法で障害を与え、光刺激を与えた後に傾斜外乱を与える予測外乱環境に対する学習を調べた。その結果、いずれの方法で障害を与えた個体においても小脳虫部の障害によって学習曲線が有意に下がることが示された(学術雑誌に投稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究として、〇直立中の予測外乱に対する筋活動の応答を説明できる数理モデルを構築すること、〇外乱に対する予測的応答を学習する小脳神経系を特定すること、を目標としていた。これらの研究はそれぞれ以下のように進捗している。 〇前年度までに構築していた、倒立振子の骨格モデルとモデル予測制御による数理モデルに対し、骨格モデルに筋の数理モデルを追加することで、筋骨格モデルに対する数理モデルの構築を行った。ヒトの直立予測実験では、外乱に先行する筋活動が見られており、構築した筋骨格の数理モデルによって、筋の予測的活動を含めて説明できるようになった。特に、予測的な筋活動は被験者によってみられる被験者とみられない被験者の両者、すなわち2つの制御戦略が知られてしたが、どのような理由で違いが表れるのかはわかっていなかった。筋骨格モデルで、共収縮の大きさを調整することでこの両者が説明できたことは、想定以上の成果であった。このように、予測制御の数理モデルに関わる研究は順調に進展している。 〇予測制御の学習に関わる神経系を調べるため、小脳虫部に障害を与えたラットに対して直立中の外乱を学習させた。障害ラットに対して予測後に外乱を与える実験を繰り返し行ったところ、小脳虫部に障害を与えたラットは、外乱予測に対する学習能力が有意に下がることがわかった。小脳虫部は姿勢に関わる小脳領域であり、また小脳では内部モデルの構築が行われる。すなわち、障害によって直立姿勢維持のための予測制御に必要な内部モデルの構築が障害されたと考えられ、障害を与えた小脳領域で、この機能が作られていたと考えられる。このようにラットを用いた予測・学習の神経構造に迫る研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度までに、直立中の予測的姿勢制御の原理に対して、外乱に先行する予測的な筋活動を含む予測制御の数理モデルの構築を行うことができた。構築した数理モデルは、内部順モデルに基づいて将来状態を予測し、予測した将来状態までの最適制御を入力するモデルとなっている。さらに小脳に障害を与えたラットの直立実験により、小脳虫部における内部モデルの構築が予測的姿勢制御の学習の機能を持つことが示された。学習に基づく、この内部モデルの構築原理の解明を目標とし、(1)ヒトの直立実験と予測制御の学習モデルの構築、(2)障害ラットの直立実験、を中心に今後の研究を展開していく予定である。 (1)ヒトの直立実験では、これまで注目していた、外乱に対する学習後の予測制御の原理だけでなく、学習過程における姿勢制御の変化に注目する。ヒトの直立実験における学習過程の重心や筋活動の解析とともに、数理モデルにおける予測制御の内部モデルを学習的に構築し、その過程を解析する。また、小脳疾患患者における直立中の予測制御を調べることで、小脳による学習の影響に迫る。 (2)ラットの直立実験では、これまで注目していた小脳機能に加えて、大脳における予測機能の寄与を調べる。予測制御は小脳における内部モデルの構築と大脳における最適化によって構築されると考えており、大脳に障害を与えたラットに対して、これまでと同様の予測外乱実験を調べることで、予測制御の神経基盤に迫る。
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Causes of Carryover |
当初の予定に比べて、次年度使用額が生じた主な項目は旅費である。この理由として、国際会議等の学術会議のための支出がオンラインでの開催等により、依然抑えられていることが挙げられる。活動のための旅費は当初の予定より抑えられているが、オンサイトでの交流の機会が減っているため、次年度、さらに積極的に学術交流を行うために費用を使用する計画である。
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Research Products
(7 results)