2021 Fiscal Year Research-status Report
超伝導技術によるテラヘルツ波スペクトルアナライザの実現
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21K04132
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
成瀬 雅人 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (10638175)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | テラヘルツ波 / スペクトルアナライザ / 超伝導伝送線路 |
Outline of Annual Research Achievements |
テラヘルツ波帯は,様々な物質に固有の輝線・吸収線に対応しており天文学や空港などでの手荷物検査など幅広い分野で利用されている.テラヘルツ波スペクトルから物質を同定するためには高い周波数分解能が必要となるため中間周波数に変換するヘテロダイン方式が主であるが,この方式には一度に取得できるスペクトル帯域に課題があった.そこで,電流印可によって,線路内を伝搬する電磁波の位相速度を制御可能という超伝導線路の特性に着目し,オンチップテラヘルツ波スペクトルアナライザを提案している. 当初は,初年度にこれまでマイクロ波帯で行ってきた直流バイアスによる位相速度制御をテラヘルツ波帯に拡張して実験を行う計画であったが,テラヘルツ波帯での回路製作の困難さから,マイクロ波帯において本研究課題の方式での周波数分解能を実験で確かめることとした.具体的には10mm角のチップ上に長さ270mmのコプレナー線路を作成した.超伝導材料には高い力学インダクタンスを期待できる窒化チタンを採用し,膜厚は50 nmとした.マイクロ波を2つに分波し,片方をバイアス電流を印可できるようにしたデバイスを通し,もう一方をIQミクサの参照信号として2波を合成し信号を干渉させた.その結果,3000MHzと2999MHzの信号を十分に見分けられることが分かり,周波数分解能は3000程度が実現できた.また,伝送線路内の位相速度は20Hz程度まではバイアス電流に追随できることがわかった.目標とする10000にはやや及ばないものの,本研究課題の実用性を確認することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デバイス作製の困難さからテラヘルツ波帯で位相速度制御を行う計画を変更し,これまで実績のあったマイクロ波帯で分光実験を行った.目標とする周波数分解能10000には及ばなかったものの,3GHzで分解能3000以上を実現できた.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度はマイクロ波帯で本研究課題の方式で周波数分解能3000を得た.今後は,テラヘルツ波帯への拡張と,さらなる周波数分解能向上が必要となる.また,電流印可によって伝送線路内の位相速度を測定するなかで,電流印可によって理論値とは異なる複素抵抗率の変化が引き起こされている可能性が示唆されており,実験を行いやすいマイクロ波帯でさらに詳細なデータを得ることで,超伝導内の状態密度の情報を取得し,超伝導物性論との比較を行っていきたい. また,測定系の応答速度を速めるためにより高周波でのバイアスをかけても位相速度が追随できるように,線路のインダクタンス値などの最適化作業をマイクロ波帯で並行して行っていく.
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Causes of Carryover |
当初の計画と異なりテラヘルツ波帯での実験実施を1年度ずらしたため.2022年度は,実験に必要な消耗品の購入や,テラヘルツ波を冷凍機内部に導入するための物品を購入する.
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