2022 Fiscal Year Research-status Report
多チャンネル計測による弾性波速度と減衰特性の空間分布の同定
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21K04217
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
小林 義和 日本大学, 理工学部, 教授 (20339253)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西田 孝弘 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, 港湾空港技術研究所, 主任研究官 (10345358)
小田 憲一 日本大学, 理工学部, 准教授 (70632298)
中村 勝哉 日本大学, 理工学部, 助手 (70843548)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | AEトモグラフィ法 / 波線追跡 / 位置標定 / 弾性波速度分布 / 最小二乗法 |
Outline of Annual Research Achievements |
AEトモグラフィ法(AET)において、2021年度には、最終的な弾性波速度分布の同定結果に対する弾性波の発信位置の位置標定の分解能の影響を明らかにした。この影響については、以前よりその可能性は指摘されていたものの、従来の波線追跡に基づく方法では要求される計算資源の問題から数値実験等が実施できず、直接その影響を確認することができなかった。本研究では、この数値実験を、波線を直線として仮定し、解析に必要な計算資源を低減することによって実施し、その結果から高い精度で弾性波速度分布を同定するためには、弾性波の発信位置の分解能を向上させる必要があることを示した。これは、結果として波線追跡に基づいた手法においても同様な傾向があることを示しており、要求される計算資源を抑制しつつ、弾性波の発信位置の分解能を向上させる必要があることを示唆する結果となった。また、AETによって実構造物の健全性診断を行うためには、弾性波の到達時刻を精度よく読み取る必要があるが、これを実現するため、よりSN比が高く、到達時刻の読み取りが容易に可能な時系列データを選別し、その選別された時系列データから弾性波の到達時刻を読みだす手法の開発を行った。2022年度には、従来AETにおける逆解析手法として採用されてきた同時反復法に起因して生じる弾性波速度分布の同定誤差を低減させるために、逆解析手法を非線形最小二乗法に変更し、更に観測方程式を線形化する際に弾性波速度分布の弾性波の発信時刻に対する影響を考慮するように定式化を行った。これによって、観測条件が良好ではない場合でも、弾性波速度分布の同定精度が向上することを確認した。計測システムの構築については、構築に必要な機材等が近年続いている半導体不足に伴って広く市場に流通していないことから、手元にある機材で限定的ながらその性能評価等を進めるに留まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度においては、2021年度に確認された最終的な弾性波速度分布の同定結果に与える位置標定の分解能の影響を踏まえ、弾性波速度分布の同定精度を向上させる方法について検討を行った。従来の手法では、AETにおける弾性波速度分布の再構築には主として同時反復法を採用していたが、同時反復法は、観測方程式をそれぞれに評価し、観測方程式の誤差を個別に低減するように弾性波速度分布を更新することから、その結果に大きな誤差が混入する恐れがあった。そこで、2022年度は、弾性波速度分布の再構築において、全ての観測方程式の誤差を同時に低減するように弾性波速度分布を再構築する非線形最小二乗法に基づいた逆解析手法を採用することにより、弾性波速度分布の同定精度を向上させるべく改良を行った。また、非線形最小二乗法の適用に際しては、従来その観測方程式にAETにおける弾性波の発信時刻に対する弾性波速度分布の影響が考慮されていなかったため、観測方程式を線形化する際に、これを考慮するように改良を行った。これによって、観測条件が比較的悪いような状況においても、再構築される弾性波速度分布の同定精度が向上することを確認することができた。また、再構築される弾性波速度分布の観測誤差に対する感度解析を行い、計測システムに要求される弾性波の到達時刻の検出精度に関する予備的な検討を行った。これにより、限定的な条件下ではあるが、適切な弾性波速度分布を同定するために必要な弾性波の到達時刻の検出精度の目安を明らかにすることができた。計測システムついては、未だ新型コロナウィルスの感染拡大に伴う半導体不足の影響が解消されておらず、計測システムの構築に必要なワンボードコンピュータ等の調達が2021年度に引き続き不可能であったことから、構築を進めることができなかった。しかしながら、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、2022年度に引き続き、AETの解析アルゴリズムの高度化と、必要な機能の実装を推進する予定である。2021年度から2022年度は、解析に必要な計算資源の低減のために波線を直線とし、その上で多数の数値実験を行うことによって、AETの解析アルゴリズムに内在していた問題点の発見と解決に注力していたが、これらの開発については、一通りの対応が完了する見通しが立ったため、2023年度には、波線追跡を行うことによって弾性波の回折や屈折を考慮した既存のAETの解析コードに、弾性波の発信点の分解能を向上させ、かつ高度化された逆解析手法の実装を行うことにより、より損傷が大きく、弾性波の回折や屈折の影響が無視できないような問題に対しても、安定して弾性波速度分布の同定が可能になるように解析コードを改良する。 また、当初より予定されている周波数応答による材料物性の同定手法の実装及び材料物性と従来のAETで同定される弾性波速度との関連性が適切に考慮されるような機能の追加を引き続き推進し、当初の計画通りに材料物性の同定に関わる観測情報を増加させ、より適切な健全性診断を可能とするような機能の拡張を検討する。計測システムの構築については、引き続き必要な機材の確保につとめ、機材の入手が可能になり次第早急に実施する予定ではあるが、未だ市場にその必要機材が広く流通していないため、その見通しは不明である。このため、本年度は手元にある機材を利用することによって、計測システムの構築に関わる基礎的な検討を優先して実施する予定である。また、開発を実施している手法の性能評価を行うために、模型試験を実施することによって、数値実験だけではなく、実際に観測されたデータを用いてその妥当性の検討を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度に引き続き、2022年度も継続した新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、解析手法の開発については順調に進捗したが、計測システムの構築と、開発された手法の検証実験については、必要な機材の調達が不可能であったために実施することが困難であった。これに伴って、必要な資材の調達費用を支出しなかったため、次年度使用額が生じた。2023年度については、これらの状況の改善次第、計測機器や実験用供試体等の調達を速やかに進め、研究目的の完遂のために使用をする予定である。
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