2022 Fiscal Year Research-status Report
パイピング現象を考慮した微視的アプローチに基づく新たな斜面崩壊予知手法
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21K04263
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Research Institution | Tokuyama College of Technology |
Principal Investigator |
荒木 功平 徳山工業高等専門学校, 土木建築工学科, 准教授 (00600339)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 斜面崩壊 / 土砂災害 / 降水 / パイピング / 現地実験 / 安定解析 / 地球温暖化 / 気候変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年7月豪雨は37府県961件に及ぶ過去最大級の広域土砂災害をもたらした.全国で年平均土砂災害発生件数は1,105件,土砂災害警戒区域等指定箇所数は672,419箇所(2022年3月時点)と非常に多い.不確定性を有するとしても急傾斜地の健全度を地域に発信・周知していくシステムが求められている.本研究では,地域発信型予知システムの開発に向け,斜面崩壊・侵食等の実現象の把握,危険指標の検討,GIS等を用いたマッピングを行った.その結果,3編の論文([1]斜面における降雨浸透特性に関する研究,斜面崩壊と雨の降り方の関係に関するシンポジウム北九州2022論文集,pp.47-56,2022.[2]鉛直一次元浸透流現象の観測および解析 ,第 11回土砂災害に関するシンポジウム論文集,pp.125-130,2022.[3]土中水分連動型斜面崩壊危険指標の開発と地理的評価に関する一考察,第 11回土砂災害に関するシンポジウム論文集,pp.65-70,2022.)が査読を受け採択された.また,研究成果の社会への還元,社会貢献に向けて研究協力者(当校専攻科1年淺田穂乃果)とともに土木学会や地盤工学会で研究発表し,3つの受賞([1]若手優秀発表賞(第74回土木学会中国支部研究発表会 ,「土中水分連動型斜面崩壊危険指標の開発とマッピング」,令和4年5月21日,[2]地盤工学会優秀論文発表者賞(第57回地盤工学研究発表会,「土中水分連動型斜面崩壊危険指標の検討と地理的評価」),令和4年8月29日,[3]土木学会優秀講演者賞(土木学会全国大会第77回年次学術講演会,「斜面崩壊危険指標の開発と地理的評価」),令和4年10月14日)とともに,それによる研究功労が認められた上記研究協力者が国立高等専門学校機構学生表彰(令和5年2月17日)を受けた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
徳山工業高等専門学校に現地実験斜面(勾配30度,高さ5m,真砂土を幅0.9m,厚さ0.1mで覆土した)を造成した.観測カメラ・土中水分計(斜面法尻から1m,埋没深さ10cmに設置)・雨量計による斜面動態把握を行った.裸地区画に地隙侵食発生の様子を撮像するとともに,地隙侵食時の経時的な降水量~体積含水率関係を実測出来た.降水に伴い体積含水率が変動し,2021年6月4日午前2時頃,最大降水量を観測し,午前4時頃最大体積含水率を記録した様子を捉えることが出来た.平均粘着力と湿潤単位体積重量の土中水分依存性を考慮し,体積含水率によって粘着力が変化する挙動モデルを導入し,無限斜面法による斜面安定解析を行い,安全率を求める手法を開発した.さらに,粘着力を確率変数とする正規分布を導入し,安全率が1となる限界粘着力を求め,粘着力が限界粘着力以下となる確率を斜面崩壊確率とする指標を開発した.体積含水率の増加に伴い安全率が減少し,侵食が発生した午前3時頃に小さくなる様子を解析することが出来た.4日午前2時頃~午前5時頃に崩壊確率の増加がみられたことを明らかにした.侵食発生時に解析結果が危険値を示したことを明らかに出来た.また,今回の条件下では安全率,崩壊確率ともに変化量は斜面勾配が30度~40度の方が,勾配40度~50度に比べて大きいことがわかり,降水量や土中水分が勾配30~40度の斜面に大きく影響を与えると考えられた.また,安全率では斜面勾配0~20度で大きく低下し,20度で安全率1未満を示し,30度以上で収束傾向を示した.斜面崩壊確率では,斜面勾配が10度以上で急激に上昇した.30度以上の急傾斜地に対しては,安全率より崩壊確率の方が鋭敏な反応を示すと考えられることを示した.また,徳山工業高等専門学校周辺斜面の健全度をGISによりマッピング出来た.したがって,おおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
地球温暖化等の気候変動に伴う大雨の頻度増加が指摘されてきている。昨今、降水に伴う表層すべり型の斜面崩壊が多発している。特に降水量が多いと崩壊土砂が土石流となって、大規模な土砂災害が引き起こされる。平成30年は土砂災害の発生件数が3,459件となり、集計開始(昭和57年)以降1位を記録した。年平均(1,081件)の約3倍である。土砂災害の予知は極めて難しいが、微視的、巨視的、多面的な視点からアプローチしていく必要がある。斜面崩壊後、滑落崖地表近傍ではパイピング(土中水の動水勾配に起因する浸透力が土粒子を動かし、地盤内にパイプ状の水みちが出来ること)の痕跡が観察される。パイピングと斜面崩壊とを関連付け、崩壊メカニズムを明らかにしていくことが急務となっている。微視的にみて、「降水が地盤浸透することでどのようにパイピングが発達していくか」、「パイピングの発達がどのように斜面の安定度に影響するか」を解明していく必要がある。一方、効果的な防災・避災・逃災のためには、斜面崩壊が発生する「時間(いつ?)」、「場所(どこで?)」、「規模(どれくらい?)」を地理情報や現地観測データ(降水量や土中水分など)と組み合わせて予知していくシステムが求められる。降水に伴い地下浸透流量が増加することを考える。浸透流量の増加による細粒分の流出、細粒分の流出に伴う平均間隙径の増大、平均間隙径の増加に伴う浸透流量の増加、浸透流量の増加に伴う細粒分の流出、といったサイクル的・時間的発展に伴うパイピングの発達を考える必要がある。粘土等細粒分の消失がサクションを低減する作用、サクションの低減が粘着力などのせん断強度パラメータを低減する作用をモデル化し、斜面安定度への評価に繋げる。言い換えれば、気象条件、地理情報、土質情報などを反映した力学的アプローチに基づく表層すべり型斜面崩壊の予知システムを開発する必要がある。
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Causes of Carryover |
予定していた消耗品等について割安のものをインターネットなどを用いて検索して購入するように心がけたため次年度使用額が発生した。当該使用額については、研究は順調に進捗しているが、研究をより発展させるための現地実験・数値解析で使用する消耗品などについて使用する。
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Research Products
(6 results)