2021 Fiscal Year Research-status Report
被災地の「孤独死」問題からみた生活空間デザインの課題
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21K04407
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
田中 正人 追手門学院大学, 地域創造学部, 教授 (40785911)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 孤独死 / コミュニティ / 社会的孤立 / 応急仮設住宅 / 災害公営住宅 / 東日本大震災 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,東日本大震災の応急仮設住宅および災害公営住宅における「孤独死」の発生実態をふまえつつ,その防止に向けて展開された居住空間デザインの試みが果しえた役割と意味を読み解くものである。3年にわたる研究期間のうち令和3年度は1年目に当たるが,この前段に実施した研究(基盤研究C,課題番号17K06736,被災地の住宅セイフティネットにおける「孤独死」の発生実態とその背景)の延長上に位置づけられる。 今年度の実績としては以下の3点がある。(1)は,「孤独死」の発生推移をもとに,被災者の孤立が深刻化かつ低年齢化していることを示し,その要因を,住宅の立地や設計との関連のもとで分析する必要性を述べた。(2)は,本研究課題以外の成果を含む単著であるが,特に「孤独死」に関しては阪神・淡路大震災から東日本大震災にかけて,確かに仮設住宅や災害公営住宅の質は向上していると考えられる一方,入居者が孤立するプロセスにはきわめて類似点が多いことを指摘した。その背景には,都市基盤整備などを含む復興政策全体の構造の影響がある。(3)は,そうした復興政策が目標に据える安全基準が,近代化の過程でどのように形成されてきたのかを論じている。安全基準は徐々に精緻化されるが,そもそもその基準を達成することと,居住者一人ひとりの生活水準が回復することは連動するのかどうかという論点を提示した。 (1)田中正人(2021)「東日本大震災における「孤独死」の発生実態――宮城県の応急仮設住宅および災害公営住宅の事例」『2021日本建築学会大会学術講演梗概集』,311-312。 (2)田中正人(2022)『減災・復興政策と社会的不平等――居住地選択機会の保障に向けて』日本経済評論社。 (3)田中正人(2022)「災害復興における「安全基準」と「生活水準」の二律背反性」『追手門学院大学地域創造学部紀要』第7巻,123-137。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,①「孤独死」に関するデータベースの構築,②同データベースに基づく「孤独死」の発生実態の分析,③現地目視調査による災害公営住宅の空間特性の把握,④入居者への質問紙調査による住棟内での人的接触機会の分析を経て,最終的に⑤居住空間デザインが果した役割と意味を考察する。大きくは①と②による「孤独死」の実態分析,③と④による空間特性と接触機会の関係の分析のふたつに分かれる。 当初は①と②を先行する予定であったが,現地の基礎自治体(釜石市)との交流機会を得たことから,当該自治体において,④の災害公営住宅での質問紙調査にまず着手した。すでに調査票の設計,配布,回収は完了し,集計の準備に入っている。対象とした災害公営住宅は,市内中心部に位置する上中島地区Ⅰ期(54戸),上中島地区Ⅱ期(156戸),大町1号(44戸),天神地区(52戸),只越1号(33戸)の計339戸である。配布数は330票,回収数は102票(回収率31%)であるが,すでに一般入居が始まっており被災者以外の居住がみられるため母集団の精査が必要である。③の現地目視調査については,これらの団地のほか,大船渡市,大槌町でも実施した。ただし,感染症拡大のリスクが未だ継続しているため,外観の簡易な調査にとどまる。 並行して,釜石市都市計画課およびまちづくり課への聞き取り調査を実施した。計画・設計を担った前者に対しては,従来の標準的な仕様ではないデザインの採用に至った経緯,立地の選定や入居方式の考え方,計画立案から完成までのプロセス,入居者の概要,集会所の利用実態,入居者の交流の状況などをたずねた。また,入居者への支援等を担う後者に対しては,市内8か所に設置されている「生活応援センター」との関係や見守り等の支援の実態,入居者の生活課題などをたずねた。同課とは,上述の質問紙調査の結果をもとに,意見交換を継続する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に,災害公営住宅入居者への質問紙調査の分析を進める。今年度は釜石市内中心部の5団地339戸を対象としたが,サンプルサイズをさらに確保すべく,対象範囲を拡大する。積層型の共同住宅であり,立地条件が比較的近いと考えられる同市内の大只越1号(14戸),大渡(27戸),只越4号(27戸),只越2号(11戸),大町4号(41戸),大町2号(29戸),大町5号(24戸),大只越2号(22戸)の計195戸を想定している。 第2に,上記の質問紙の分析過程において,釜石市まちづくり課との意見交換を実施する。また,感染症拡大のリスク次第であるが,状況が許せば「生活応援センター」をはじめ,できるかぎり入居者支援を担う現場の人びとにインタビューの協力を求めたい。特に,災害公営住宅に併設されている「生活応援センター」は,本来的な機能以外の波及的な役割を果たしている可能性も考えられる。 第3に,災害公営住宅の空間特性を詳細に把握するための現地目視調査を行う。これも状況を見ながらということになるが,外観や共用部分だけでなく,住戸内への立ち入りを含む空間利用実態の観察や聞き取りを実施したい。特に,多くの住棟で採用されているリビングアクセスと呼ばれるプラン,上中島地区の住棟にみられる半屋外の共用スペース,天神地区の中庭に面したバルコニー,只越や大町にみられる廊下の「溜まり」のスペースなどについて,質問紙では捕捉困難な各入居者のふるまいを確認する。 第4に,岩手県警察本部の検視報告書に基づく「孤独死」に関するデータベースの構築である。過去に入手した宮城県警察本部のデータとの比較検討が可能となるよう,岩手県に対しても,共通するフォームでの提供を求めたい。
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Causes of Carryover |
調査手順の前後を入れ替えた関係上,データベース化の作業を後にまわすこととなった。よって,その分の人件費が予算を下回っている。同作業は次年度に実施する計画である。
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Research Products
(4 results)