2023 Fiscal Year Research-status Report
Influence of sugar refinery industry on area development in Taiwan between the late Qing dynasty and the early Japanese administration
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21K04456
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
辻原 万規彦 熊本県立大学, 環境共生学部, 教授 (40326492)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 領域史 / 都市史 / 台湾総督府文書 / 台湾百年歴史地図 / 台湾日日新報 / 地域開発 / 原料採取区域 / 軽便鉄道 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,「清朝末期の台湾の社会と地域の枠組みが,製糖業の導入によって,どのような過程を経て,日本統治期における台湾の社会と地域の枠組みに変容したか」を,「多量の新聞記事,旧版地図ならびに現地調査を組み合わせることによって解き明かす」ことである。 当初は,1年目から3年目の2021年度から2023年度までで,基本情報の整理によって基礎を固めた後に,現地調査を組み込んで研究を加速させることを計画した。具体的には,次のような計画であった。①新式製糖工場以前の製糖工場である「改良糖■」(■は,まだれの下部に「部」。以下同じ。)の位置の同定と甘蔗や砂糖の輸送のためのインフラに関する文献調査,②①を基にした台湾での現地調査と台湾での空中写真の収集,③台湾総督府文書など公文書に類する史料や新聞記事の収集と考察,④祝辰巳(殖産局長や民政長官を歴任)の経歴や果たした役割と実績に関する調査,などを行うことである。 3年目の2023年度は,9月に新型コロナウイルス感染症の流行以来初めて台湾での現地調査を実施することができた。ただし,調査時に台風が台湾を直撃した影響で当初の予定通りの調査や打ち合わせを行うことができなかった。しかしそれでも,台湾の研究者と久しぶりに対面での交流ができ,台湾東部を中心に現地調査を実施できたことは大きな成果であった。また,これまで収集した資料/史料の内容の精査と理解も進めることができた。 その結果,台湾中南部の嘉義庁,鹽水港庁,台南庁,東部の花蓮港庁,中部の台中庁を対象に「改良糖■」の立地と甘蔗や砂糖の輸送のためのインフラの変容過程について検討することができ,査読付き論文として発表することができた。さらに,11月に神戸女子大学三宮キャンパスで開催された「都市空間編成研究会」で「変容する「範囲」でとらえる日本統治期初期における台湾の領域」を報告することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画の立案当初は,新型コロナウイルス感染症の影響が1年目と2年目の2021年度から2022年度まで及ぶとは考えておらず,この期間は現地調査を実施することができなかった。見込み違いは反省すべきであるが,その中でも何とか当初の研究の目的を達成できるように研究の方法や実施の時期を組み替えて鋭意研究を進めている。 文献調査では,当初の計画の通り,台湾を構成する彰化平野,嘉南平野,屏東平野,蘭陽平野,花東縦谷(花蓮地方と台東平野),桃竹苗丘陵の5つの領域に分けて研究を進めている。そのうち,彰化平野,嘉南平野,屏東平野,蘭陽平野,花東縦谷については「改良糖■」(■は,まだれの下部に「部」。)の立地や交通インフラに関する文献調査,台湾総督府文書を用いた検討を既に行うことができた。その結果,これらの領域では,清朝末期の台湾の社会と地域の枠組みが,製糖業の導入によって,どのような過程を経て,日本統治期における台湾の社会と地域の枠組みに変容したかのかを解き明かすという本研究の目的はある程度達成できたと判断している。 ただし,台湾での現地調査はまだ1回のみしか実施できていない。これには,研究成果を確保するためにも先行して査読付き論文を投稿してきたこと,すなわち,文献調査に注力して時間をかけたために,現地調査の時間を確保することが難しかったことも影響している。さらに,計画の立案当初は「改良糖■」の位置を地番レベルまで詳細に同定できると予想していたが,現段階では,資料/史料の制約と現地調査の実施が少ないことから,ほとんどの場合で日本の町村にあたる庄や街レベルまでしか同定できていない。 以上のように,現地調査が実施できていないために「改良糖■」の位置を地番レベルまで詳細に同定できていないこと,桃竹苗丘陵について文献調査をあまり進めることができていないことなどから「(3)やや遅れている。」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の影響などで当初の研究計画通りに研究が実施できないまま4年間の研究期間の半分である2年間が過ぎてしまい,3年目の2023年度でも完全には取り戻すことが難しいと考えた。そこで,3年目の2023年度は,昨年度提出した実施状況報告書で報告した通り,先に文献調査を実施し,その成果をもって現地調査を実施してさらに両方の調査の結果をとりまとめて研究のまとめとする方針を転換することにした。つまり,現地調査よりも文献調査に重点を置いて研究を進めることにした。これは,文献調査を続けてきたことによって様々な情報や知識が蓄積されているので,思考が中断されないように,もしくは記憶が薄れないように文献調査を継続して進める方がよいと考えたことにもよる。ただし,当初の研究目的である「清朝末期の台湾の社会と地域の枠組みが,製糖業の導入によって,どのような過程を経て,日本統治期における台湾の社会と地域の枠組みに変容したか」を解き明かすことは当然のことながら堅持する。 具体的な研究方法に関する3年目の2023年度の方針転換を受けて,4年目の2024年度では,4年間の研究期間全体を通して,例え個別の調査方法や時期を変更したとしても,当初に設定した大きな研究目的を達成することに努めたい。その際,4年目の2024年度の当社の計画では,新たな内容の調査を実施せず,補足調査に止め,研究の取り纏めに全力を注ぐこととしていたことをうまく利用したい。 これまでの3年間では,当初に立案していた具体的な研究計画をなかなか遂行できないことばかりに頭を悩ませてきたが,大きな研究目的を達成するためには何に取り組むべきか,と考えを切り替えることが重要ではないか,と考えている。そのために,これまでの研究成果を今一度見直し,残された研究期間を有用に活用するための方策を考えたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは,1年目と2年目の2021年度と2022年度に現地調査が実施できなかった影響による。この影響で,2年目から3年目に675,515円の繰越額が生じた。3年目は,文献調査に重点をおいた結果,現地調査を数多く実施することまではできず,結果として4年目への繰越額481,584円が生じることになった。 4年目は当初の計画では新たな内容の調査を実施せず,補足調査に止め,研究の取り纏めに全力を注ぐこととしていた。しかし,これまで現地調査がほとんど実施できていないので,研究全体のバランスを考える必要はあるが,実施できる限りは現地調査を実施したい。なお,4年間のうち既に3年間の予算の執行が当初の計画通り実施できていないために,最終的に一部返還することも視野に入れる必要があると考えている。 以上を踏まえ,内定を頂いた4年目の予算額70万円と次年度使用額を含めた合計1,181,584円の利用計画を以下のように再考した。旅費については計画の立案当初よりも値段が高くなっており,特に国外への旅費は高くなっているので,多めに見積もった。 図書・各種資料/史料購入費消耗品費(一般文具など一式)100,000円,国内旅費(資料収集,東京方面2回,成果発表2回)400,000円,外国旅費(台湾,2回)600,000円,その他(論文投稿費など)81,584円,合計1,181,584円
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