2021 Fiscal Year Research-status Report
核沸騰と膜沸騰の共存による超高速液体水素予冷の実現
Project/Area Number |
21K04477
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
吹場 活佳 静岡大学, 工学部, 准教授 (50435814)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 沸騰伝熱促進 / 極低温 / 液体水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では極低温流体による配管などの金属部品を高速で冷却する手法を開発した。核沸騰と膜沸騰を同時に発生させることにより金属近傍の固液接触を促進し予冷時間を削減した。具体的には低熱伝導率被膜と金属面が交互に露出する伝熱面を作成した。断熱層と金属冷却面が交互に露出するような伝熱面を作ることにより、断熱層で核沸騰、金属部分で膜沸騰となるような冷却面を作り出した。核沸騰と膜沸騰の共存により伝熱を阻害する要因となる膜沸騰の気相の膜を崩壊させ伝熱を促進する。 研究ではまず、実験室にて液体窒素を用いて、提案する伝熱面の有効性を確認する実験を実施した。銅板に溝を加工し、溝に低熱伝導率の被膜を加工した。銅板の上向きの伝熱面を除く他の5面をポリスチレンの断熱材で覆った。銅板には熱電対を設置し温度履歴を計測することで銅板からの伝熱量を算出した。冷却時間を測定し、提案する伝熱面により冷却時間が短縮されることを確認した。 またJAXA能代実験場で液体水素実験を実施した。秋田県能代市にあるJAXAの能代実験場は、危険な液体水素を取り扱うことができる国内随一の設備である。大型の液体水素貯蔵設備があり、他の実験と並行して実施することで液体水素購入費用を削減することができた。能代実験場では遠隔操作による液体水素プール沸騰実験を試みた。無垢銅板および提案する伝熱面の冷却時間を測定し、横軸を温度、縦軸を熱流束とする沸騰曲線の作成を試みた。液体水素特有のトラブルにより、最終的に無垢銅板の沸騰曲線のみを取得した。ただし当初の計画では液体水素実験は令和4年度以降の予定であり、研究は前倒しで進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
提案する低熱伝導率被膜と金属面が交互に露出する伝熱面を作成した。低熱伝導率被膜としてはシリコンシーラントを用いることとした。放電加工により銅板に溝を加工し、溝にシーラントを塗布して硬化後はみ出した部分を削り取った。溝の幅、深さ、銅露出面とシーラント部の面積比率をパラメータとして複数の供試体を作成した。作成した供試体を用いて液体窒素によるプール沸騰実験を実施した。溝の幅、深さ、面積比率には最適値があることが分かった。最適なパラメータを選択することにより、無垢銅板と比較して冷却時間を1/5以下に短縮することができた。 得られた成果を液体水素にも適用すべく、JAXA能代実験場で実験を行った。安全に実験を実施するため、すべての作業を遠隔で実施できるような実験系を構築した。液体水素をデュワーに充填したのち、エアシリンダにより供試体を液体水素内に投入する。10月に第1回目の液体水素実験を試みた。容器から気化した水素が漏洩し、検知器が作動したため実験を中止することとなり、液体水素実験の難しさを改めて実感した。対策を施し、11月に再度液体水素実験を試みた。この時は容器の周囲をさらに導電性プラスチック段ボールで覆い、水素が漏洩した場合でも安全に上部に逃がすことができる構造とした。しかし実験開始前に供試体の温度が低下する不具合が発生した。さらにエアシリンダが低温で凍結し、動作しなかった。不具合を修正しつつ実験を行い、無垢銅板のプール沸騰データの取得には成功したものの、新しく提案した伝熱面のデータを取得することはできなかった。 年度末にこれまでの成果を論文にまとめ、国際誌に投稿した。現在査読者とのやり取り中である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように令和3年度中に液体水素実験を実施することができたが、提案する伝熱面のデータの取得には至らなかった。このことを踏まえ今後の研究の方針を以下のように定める。 伝熱面について、今年度までにプール沸騰において十分な冷却促進効果を示す形状を見つけだすことに成功した。今後は実用化を見据え、配管に施工可能な被膜を見出すことに尽力したい。令和3年度に製作した放電加工により加工した溝にシーラントを詰める手法は配管には施工しづらい。また放電加工もコストがかかるため、できれば他の手法で加工したい。この点について次年度も検討を続ける。 また令和4年度の主要課題として液体水素でのデータ取得に挑みたい。令和3年度の実験で、液体水素を用いた実験には特有の難しさがあることがわかった。特に水素の漏洩には十分気を付ける必要がある。そこで令和4年度は装置全体を密閉構造として実験系を構築することを試みる。これに伴い沸騰形態をプール沸騰から流動沸騰に切り替える。これにより流量の設定、調整、計測などの新たな問題が生じるが、安全性の向上が期待できる。安全性は向上するものの、密閉構造の場合外部からのアクセスが困難になるため実験装置・手法としてはより複雑なものとなる。実験室で液体窒素を用いて十分な試行実験を行ったのち、JAXA能代実験場での液体水素実験に挑みたい。 得られた成果は国内、国外学会で発表を行うほか、国際誌への投稿を目指したい。液体水素を用いた冷却実験は例が少なく、データとして貴重である。これを取得し公表することで注目度の高い論文となりうる。
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Causes of Carryover |
予算に端数が生じたため無理に使用せず次年度に回すことで有効活用することとした。消耗品の購入に充てる計画である。
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Research Products
(2 results)