2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K04540
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Research Institution | Tokuyama College of Technology |
Principal Investigator |
浅野 真誠 徳山工業高等専門学校, 一般科目, 准教授 (80408707)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 新しい実在論 / 存在論的客観性 / 認識論的客観性 / ゲーム理論 / 行動経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は(1)認識論的意思決定理論の構築(2)認識論的意思決定理論を用いた社会モデルの提案を目的としている。現在、社会科学における認識論的意思決定理論の重要性とその構築に必要な数学的枠組みに関する検討を、現代の思想潮流である「新しい実在論」の視座からおこなっている。新しい実在論は存在の概念を「何らかの対象が何らかの特定の仕方(意味)で現象すること」と捉え、現象の領域(意味の場と呼ばれる)の多元的実在を認める。存在論的(自然科学的)に客観的な事実は自然という意味の場に現象し、人間の体験といった認識論的に客観的な事実は(自然とは別の)信念や志向性を象徴する意味の場に現象する。一般に、これらの場は部分的に重なりがあるにせよ、包摂の関係にはないとされる。つまり認識論的事実は必ずしも存在論的、自然科学的事実に還元されるとは言えない。意思決定の背後には多様な体験で構成された文脈があるが、その内容を脳内、または身体外部に観察される事実のみで説明することは不可能であるかもしれない。新しい実在論が与えるこのような示唆は文脈を直接の記述対象とする認識論的意思決定理論の重要性を示すうえで不可欠である。また、期待効用仮設を前提として構成されている既存の意思決定理論(ゲーム理論とその周辺理論)との対比についても論じられた。期待効用仮設は確率論に則した合理的意思決定のあり方、すなわち確率論が重視する存在論的客観性と認識論的客観性の重なりに現象する体験と解釈できる。(行動経済学は存在論的客観性からの逸脱、非合理性を現象論的に説明する試みと位置付けられる。)対して認識論的意思決定理論は合理性と非合理性の区別を超えたメタな視点を有さなければならない。当理論が確率論を包含する枠組み(非可換確率論の枠組み)に構成されることはこの点において必然である。以上の論点を精査した内容は今後報告される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の進捗状況は「やや遅れている」と判断される。2021-2022年度に計画されている「意思決定過程の定式化」は第一の研究目的「認識論的意思決定理論の構築」における主たる問題であり、2023年度以降に展開される第二の研究目的「社会モデルの提案」に係る計画「社会秩序形成の定式化」の土台に位置付けられている。その重要度の高さから、当計画は慎重に進められる必要があった。本課題の原拠となっている思想、新しい実在論の中心概念である「意味の場」は多様にあるが、そこには人間の内なる体験、認識論的事実を現象させる場が含まれる。認識論的意思決定理論が問題とするのは行動表象の比較という体験が現れる場であり、これを象徴する信念は行動主体と主体を取り巻く環境(他の行動主体を含む)との関係性を説明すると考えられる。研究代表者は社会モデルの提案を見据えて、特に「競合・協働・対立」に分類される関係性に注目している。そして種々の社会問題に潜むこれら関係性の混在と干渉にある種の普遍的構造があると予想している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の現在の進捗状況は「やや遅れている」としたが、今後の展開の障壁となる理論上の大きな問題はない。第一の研究目的「認識論的意思決定理論の構築」が完了すれば、第二の研究目的「社会モデルの提案」に向けた計画「社会秩序形成の定式化」は加速的に進むと予想している。秩序形成の本質は協働性の向上と対立性の減退にある。計画では、二つの秩序形成の過程が議論される。ひとつは制度による秩序形成である。これは協働的信念を強め、対立的信念を弱めるように社会的相互作用自体を調整することに対応する。一般に、社会的相互作用の構造が複雑になる程に最適な調整を見出すことは困難になると考えられる。認識論的意思決定理論に基づく社会モデル(信念の網モデル)において、この問題が数学的に解析される最適化問題として提示される。もうひとつは習慣としての秩序形成である。これは協働的信念に人間意識を向かわせる経験的学習に対応する。学習過程の定式化は認識論的意思決定理論の学習モデルへの応用と位置づけられ、これにより自己意識を前提とした倫理的社会のあり方や文化の多様化に対する新たな視点を創出する。
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Causes of Carryover |
当初、国内の学会旅費と国際学会旅費に支出される予定であったが、コロナ渦の影響により困難となった。 未使用額は次年度の研究会、学会旅費に充てることとしたい。
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