2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of evaluation tool on structural and cost performances of seismic reinforcement projects applied to existing timber houses
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21K04588
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
田端 千夏子 三重大学, 工学研究科, 准教授 (30508544)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
富岡 義人 三重大学, 工学研究科, 教授 (50237111)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 耐震診断 Seismic Diagnosis / 木造住宅 Timber Houses / 費用対効果 Cost Performance |
Outline of Annual Research Achievements |
木造住宅の耐震補強の「費用対効果」に注目した研究をいっそう推進し、実務設計において実践的に活用できる補強設計法を提供するために、研究代表者は耐震診断評点の座標系表示(以下評点座標系という)を提案している。これを用いることで、補強設計の設計方針とその耐力状況を可視化する方法を開発・実現しようとしている。令和3年度は、木造住宅の耐震診断判定書および補強工事計画書および実際の設計における工事見積書を、実務設計家および関係団体から直接入手し、補強設計の技術的内容の実態と、それにともなう建設費用の実際の支出状況のデータを得た。これを原資料として、補強前後の診断評点を評点座標系にプロットすることで、補強前後の設計上の仕様変化とそれによる診断評点の向上をつまびらかに表現することができた。 さらに評点座標系と直交する第三次元にコストをとり、補強設計の各種仕様別の工事支出の明細を付加して表現した。これにより、現実の補強設計における仕様策定-性能向上-費用支出の実態の理論的評価が可能となる枠組みが成立した。 以上のように、令和3年度は、現実に行われた補強設計の実務的成果を、本研究計画で提案した理論的枠組みに載せることで相互に検証する方法を確立し、それを示すことができた。以上は、本研究の理論的枠組みの実践的応用性が実証されたことを意味し、本研究の実務的な応用への道筋が誤りなく切り開かれうることを証明した重要な成果だと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では耐震診断評点の評点座標系へのプロットおよびそれと直交する第三次元に工事費用軸をとる方法論を開発し、過去に実際に行われた実務補強設計の実例をのせて表現することが、適切に可能であることを実証した。現在この成果の論文を準備中であり、2023WCTE(World Conference of Timber Engineering), Osloにて投稿・発表する予定で、アブストラクトを送付したところである。日本国内においても、論文発表を意図しており、当てはめ事例の豊富化を図り、方法論の精密化を行なっているところである。 この方法によって実務設計の事例を同一の理論的体系において公正に表現することができるようになったことにより、各設計の合理性・不合理性、効率性・非効率性が評価できることは明白であり、補強設計ツールとしての応用開発が可能であるとのアイデアが育ちつつある。この課題意識は、設計支援システム開発のソフトウエア企業との連携によって、さらに具体的に発展できる水準にまで到達している。 さらに増改築工事と補強工事の合理的・効率的一体化などの、依頼主の希望に沿った工事設計への道筋をつけるための方策として、工事目的の複合した複雑な仕様設定の設計における性能向上に見合った妥当なコストの算出法など、これまでの行政による補強コストの補助負担を公平化し適切化する、新たな工学理論上の枠組みへの応用などのアイデアにも到達できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度以降は、実務家から得た現実の補強設計資料(設計資料、評点評価資料、積算資料の3種)をさらに増加させ、地域的偏差の影響をキャンセルするため、九州地域の資料を加えて、より客観的な方法論の検討を実施することにしている。 さらに熊本地震以前に耐震補強が行われた木造住宅の熊本地震における被災状況を調査し、その被災事例を検討することで、仕様策定-性能向上-費用支出-被害軽減といった4項目について横断的な関係を明らかにすることを企図している。このためには、行政や関係団体の協力を必要とする。 本研究の提案する方法を実務設計に実地に応用するには、これまでの研究の帰納法的枠組みを、演繹的な方法論へと反転させていかなければならない。木造住宅の各種構法要素の耐震性能の客観化、市販の建設物価版からの費用の適正なインプットなどの道筋を示す必要がある。建設積算の技術や知見との応用的結合を図って、このことを実現し、加えて行政との連携を図っていきたい。 木造住宅の耐震性は、建築防災の上で最も人命の損失との関係が深い、影響力の大きな分野である。各地方公共団体は、耐震補強設計や工事に対する補助金を支出して、木造住宅の耐震性能の向上を図っている。しかし住宅の補強は、近年明らかに鈍化している。補助額の適正な設定、補強設計への直接補助、性能向上に見合った補助金の支給など、行政支出の適正化と設計の効率性、依頼主のコスト負担の提言などをバランスよく調整していく必要が生じており、本研究の理論的方法をこの面で洗練することで、日本の現在の木造住宅の耐震性能向上に真に資する設計ツールの開発が可能となると考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナの状況により、予定していた出張(打ち合わせ及び現地調査準備)が実施できなかったため。今年度は状況が落ち着いてきているため、現地調査および成果発表に使用する予定である。
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