2021 Fiscal Year Research-status Report
外部環境別経年劣化予測および累積的損傷評価に基づく予防保全型耐震性評価手法の構築
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21K04611
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
木村 至伸 鹿児島大学, 理工学域工学系, 准教授 (10363607)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 剛性低下予測 / 予防保全型耐震性能評価システム / 耐震性能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,経年劣化を考慮した社会基盤を対象に,本震のみならず波状的に作用する地震力に対しての累積的な損傷評価を行い,予防保全型耐震性能評価システムの構築を目指すものである.具体的には,(i)鋼材の腐食開始時期と進展期の残存期間の推定,(ii)外部環境別の剛性低下予測,(iii)対象地点における地域特性を反映した模擬地震動の作成,(iv)剛性低下予測を用いた社会基盤の損傷評価,ならびに,許容する損傷に対する超過確率の算出,(v)超過確率から耐震性に関する対策実施時期を提案できる評価システムを構築することである. 近年,我が国における社会基盤の老朽化問題が顕在化しており,今後,建設後50年以上供用している社会基盤の割合は急増することが予想されている.このように,老朽化した社会基盤を抱え,地震大国である我が国では,経年劣化した社会基盤の戦略的な維持管理および長寿命化を図るために,耐震性も考慮した損傷リスクが増大する前に予防保全型の戦略的な維持管理手法を検討しておくことが重要となり,本研究の成果により,耐震性に着目した予防保全型耐震性能評価システムを構築できる可能性が考えられる. 今年度の検討では,橋梁台帳における損傷等級区分と塩害による劣化進行過程を対応させ,マルコフ連鎖モデルにより各劣化過程の遷移確率を算出することで,劣化進行モデルの作成を行った.さらに,断面欠損係数と経年の関係,ならびに,断面欠損係数と剛性比の関係より,外部環境別の経年劣化による剛性低下を推定した.この剛性低下予測に基づいた構造物の損傷評価を行い,任意の損傷指標に対する超過確率を算出しておくことで耐震性を考慮した修繕時期の推定が可能となり,耐震性を考慮した予防保全型の維持管理シナリオが構築できる可能性を示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の検討では,コンクリート橋の橋梁台帳に記載された橋梁定期点検結果を用いて,橋梁の下部工におけるひび割れ,剥離・鉄筋露出,うきの3種類の損傷に着目し,橋梁台帳における損傷等級区分と塩害による劣化進行過程を対応させ,マルコフ連鎖モデルにより各劣化過程の遷移確率を算出することで,劣化進行モデルの作成を行った.外部環境は,海岸線から橋梁設置位置までの距離で分類し,厳しい環境と通常環境の2水準とした.この劣化進行モデルの作成により,剛性低下開始時期及び各劣化過程に対する供用年数を決定することが可能となった.さらに,断面欠損係数と経年の関係,ならびに,断面欠損係数と剛性比の関係より,外部環境別の経年劣化による剛性低下を求めた.また,各劣化過程(潜伏期・進展期,加速期前半,加速期後半,劣化期)の腐食速度の違いを剛性低下に反映させ,より実環境に近い剛性低下を推定した.加えて,同じ環境内においても剛性低下開始時期にはバラツキがあると予想される.そのため,剛性低下開始時期のバラツキは変動係数10%の正規分布に従うと仮定し,モンテカルロシミュレーションを用いて評価を行い,この影響を明らかにした. この不確定性を考慮した剛性低下予測に基づいた構造物の損傷評価を行うことで,経年劣化による損傷の拡大を推定することが可能となった.また,任意の損傷指標に対する超過確率を算出しておくことで耐震性を考慮した修繕時期の推定が可能となり,耐震性を考慮した予防保全型の維持管理シナリオが構築できる可能性を示した. 以上のことから,おおむね順調に進展していると判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,経年劣化を考慮した社会基盤を対象に,本震のみならず波状的に作用する地震力に対しての累積的な損傷評価を行い,耐震性に着目した予防保全型耐震性能評価システムを構築することを目的として検討を行っている.本研究は,おおむね順調に進展していることから,引き続き当初の検討を実施する予定である. 今年度の検討では,外部環境別の経年劣化による剛性低下推定から,耐震性を考慮した予防保全型の維持管理シナリオが構築できる可能性を示したが,ここでの地震動は代表的な設計地震動を用いて検討を行った.本検討では,キャパシティデザイン(損傷制御設計)に基づき検討を行っていくため,地震動の設定が重要となる.特に,構造物の損傷を許容した限界状態を照査する際に用いるレベル2地震動は,対象地点で想定される最大規模の地震動を設定する必要がある.加えて,構造物の地震時挙動は地盤の震動特性と密接に関係しているため,対象地点における地盤の震動特性を明確にしておくことが重要である.地震動の震動特性は,震源特性・伝播経路特性・サイト地盤増幅特性に大きく依存する.これらの各特性が把握できれば対象地点における地震動推定が可能となる. 次年度からは,サイト地盤増幅特性を把握することを目的として常時微動観測を実施し,この特性を反映させた模擬地震動を作成する.これを基に,前震および余震を考慮した模擬地震動を作成し,本年度に実施した損傷評価の地震動として評価を行う予定である.
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