2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K04628
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
小野 頌太 岐阜大学, 工学部, 助教 (40646907)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 原子層 / 規則合金 / 第一原理計算 / 格子振動 / 結晶構造 / 機械学習 / 準安定構造 / 魔法数 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一原理計算およびモデル計算に基づき、d次元物質の準安定構造に関する研究を行なった。 d=2:(1)銅(Cu)を含む二元規則合金に対して、2次元物質の代表的な構造である「歪んだ蜂の巣格子構造(BHC)」が動的に安定ならば、3次元のB_h構造(WC構造)とL1_1構造(CuPt型)も動的に安定であることを示した。また貴金属(Cu, Ag, Au)を含む二元規則合金(BHC構造)に対して、計135種類の規則合金の内、48種類が動的安定であることを明らかにした。(2)形成エネルギー計算に基づき、鉛(Pb)と錫(Sn)の表面合金を形成する14種類の金属基板を提案した。(3)イオン性結晶であるIA-VIIアルカリハライドとIA-IBのCsAuに対して、動的安定な2次元構造とその電子構造を予言した。マーデルングエネルギーに基づき計算結果を解釈した。(4)DFTとベイズ最適化を組み合わせることで、2次元Cu-Au合金(単位胞内に16個の原子を含む)などの安定構造を解明した。二成分Lennard-Jones(LJ)粒子系を用いたモデル計算と比較し、安定構造を化学結合の強さに基づき解釈した。 d=3:物質データベースMaterials ProjectにB2構造(CsCl構造)として登録されている416種類の化合物に対して、ブリルアンゾーン(BZ)のM点付近の固有振動数が正値を持つならば、BZ全域で振動数は正値であることを示した。また、系の動的安定性は、第4近接原子までの原子間力相互作用を取り入れることで説明できることを示した。 d=0:一成分LJ粒子系とトムソン問題で有名な球面上のN荷電粒子系に対して、N+1とN-1の場合に比べて最高振動数が極めて小さな値を示す魔法数Nが存在することを示した。さらに、LJ粒子系に対して最高振動数と全エネルギーの関係に基づく「準安定構造マップ」を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1) 2次元構造と3次元構造の間に成立する「動的安定性の相関関係」に基づき、新たなマテリアルデザインの可能性を示した点(具体的例:CuとAuのAB及びABC積層による新たなCuAu規則合金、AuZrのB11構造(CuTi型)などを予言)、(2) 2次元系の安定構造と「化学結合の強さ」との関係を明らかにした点(異種原子間の相互作用力を大きくしていくと相分離構造から規則構造に安定構造が変化し、その境界では特異な構造が現れることを発見)、(3) 100年前にCsClの安定構造として発見され、多くの化合物が取り得る構造として広く知られる「B2構造」の動的安定性の起源を解明した点(系が動的安定であるためには、第4近接以上の原子との相互作用力が必要である)、(4) 0次元系の準安定構造を表す記述子として「最高振動数」の有用性を示した点(最高振動数と全エネルギーを用いて準安定構造マップを作成し、構造相転移を直感的に理解する方法を提案した)。以上より、d次元物質の安定構造に関する理解が深まった。また、2次元物質の研究に関して、国内および海外の実験グループとの共同研究に発展し現在進行中である。研究は当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 異なる次元の構造に対して「動的安定性の相関関係」を理解する。例えば、物質の動的安定性における短距離及び長距離原子間力の効果を解明することで、2次元構造の積層による3次元構造デザインの可能性を追求する。また、研究対象を0次元及び1次元構造まで拡げて、微粒子やナノワイヤなどの安定構造と2次元及び3次元構造との関係を明らかにする。(2) 異種原子間の相互作用力に基づき様々な結晶構造を体系的に理解する。具体的には、2次元Cu-Au合金や2次元二成分LJ粒子系の安定構造探索に対して用いた研究手法を他の系にも適用することで、計算データの蓄積とその解析を行う。(3) 「フリースタンディング2次元物質」から「基板上の2次元物質」に研究対象を拡張することで、より現実的な系の安定構造を理解する。基板上の2次元金属や表面合金のモデルを提案し、実験を精密に理解する。(1)-(3)の研究を通して、d次元物質の「準安定構造」に関する理解を深める。
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Causes of Carryover |
● 初年度の予算は1,600千円であり、その内の6割程度である1,000千円を計算機の購入費に計上していたが、論文掲載費の支払いが生じたことより(500千円=250千円x2本、内1本はR4年度に支払い。オープンアクセス誌である Scientifci Reports 誌に2本の論文が掲載)、予算の使用計画を変更した。また、学会・研究会は全てオンラインで開催されたため、未使用の旅費(500千円)が残った。以上の理由により差額が生じた。 ● 次年度の予算(795千円+600千円)の使用計画は以下の通りである: (1)大規模計算およびハイスループット計算を実行するため、スパコン使用料500千円を計上する。(2) 年度の後半で学会等が現地開催されることを想定して旅費(500千円、5名分x2)を計上する。(3) ハイインパクトジャーナルへの論文掲載費(250千円~800千円)を計上する。(4) デスクトップPCの購入費(200千円)を計上する。
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Remarks |
特に準安定構造の理解に役立つデータベースとして発展させていく予定。
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