2021 Fiscal Year Research-status Report
分光的手法を用いた準結晶・近似結晶における擬ギャップの定量評価
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21K04633
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
津田 俊輔 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主任研究員 (80422442)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 光電子分光 / 準結晶・近似結晶 / 擬ギャップ |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は擬ギャップの観測として引き続きAu-Al-Tb系に対して超高分解能光電子分光測定を行った。組成の異なる試料で測定を行い、前年度に行った予備実験に続いて擬ギャップ的な強度の落ち込みがフェルミ準位近傍に見られることを見出した。また類縁物質であるAu-Al-Yb準結晶においては擬ギャップが開き始めるエネルギー以下で弱いピーク構造が見られた。YbB12においてYb由来とみられる微細な構造がほぼ同じエネルギー位置に見られることが報告されており、擬ギャップ内にYbの状態が現れたものとみられる。一方で測定に用いた励起エネルギーが約7eVであり、Ybのf電子に対する散乱断面積は極めて小さいことを考えると、上記の解釈とは矛盾する。この点はf電子に対する散乱断面積のより高い光源(例えばヘリウム放電管)を用いた測定から検証することができるため、別の装置利用を検討している。 準周期性に対する系統性の評価の観点から、近似度の違う近似結晶と準結晶の比較を行うため、Al-Pd-Mn系(M=Mn,Re,Si)の超高分解能光電子分光測定を行った。今回測定したAl-Pd-Mn系は熱電性能の高い系として知られている。準結晶間の差異は特段認められなかったが、近似結晶と準結晶の間に差異が見られた。擬ギャップが熱電性能の向上に資すると考えられており、より系統的な研究から熱電物性への貢献が可能と考えられる。スペクトルの規格化によって擬ギャップ開き始める位置の見え方が変わるため、定量性に関する議論は慎重に行う必要があることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究においては様々な準結晶・近似結晶の擬ギャップを系統的・定量的に評価することを目的としている。擬ギャップの形成によりエネルギーを得することにより準結晶という特異な結晶系が安定化する可能性を考慮してのことである。そのため、様々な系についての測定が必要となる。これまでのところ当初から予定していたAu-Al-Tb系に加えてAl-Pd-Mn系にも対象を広げて測定を始めたところである。以上の状況を鑑み、本研究はこれまでのところおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在はっきりしている課題としては2つある。一つはスペクトルの規格化の違いにより擬ギャップの開き始めるエネルギーが変わって見えることである。これはサンプル数を増やして普遍的な基準を探ってくことになる。引き続き他の試料の測定を行っていくことで進める。もう一つは副次的に見出したYb由来と思われる微細構造である。幸いなことに7eVを用いずとも観測できる程度のエネルギースケールであるため、今後ヘリウム放電管を用いた測定から検証を進める予定である。
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Causes of Carryover |
当初計画では赤外分光も併用して研究を進める予定であったが、光電子分光が想定以上に有用であったため、そちらを優先してすすめている。繰り越し分は光電子分光測定用のジグの開発と必要な真空部品に充てる予定である。
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