2022 Fiscal Year Research-status Report
非弾性中性子散乱の精密理論計算と実験の多次元スペクトル照合による水素局所環境分析
Project/Area Number |
21K04634
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
巽 一厳 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (00372532)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 水素の中性子振動スペクトル / 第一原理計算 / 局所原子配列 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、非弾性中性子散乱(INS)の非経験的理論計算/実験スペクトルのエネルギーと運動量の多次元空間での照合に基づく水素局所環境分析法を開発し、水素吸蔵合金LaNi5Hxに応用することである。水素原子の量子核効果が調和近似で言及困難な系で、運動量空間上のINS強度分布に顕れる水素原子核の終状態波動関数の対称性を活用し、エネルギー軸のみでは同定が困難な水素吸蔵合金中の水素原子の局所環境を解明する。 本年度は、調和近似を超えて水素原子核の状態を扱う方法として、水素の断熱ポテンシャルを第一原理計算での系のエネルギーより求め、水素原子核のシュレディンガー方程式の解を求める方法を採用した。シュレディンガー方程式解を求める方法としては、フーリエ変換したハミルトニアン行列を対角化する通常の方法のほか、時間領域差分(FDTD)法の既存コードquantumfdtdを用いた方法も行った。後者は、アドバンスソフト株式会社の提案に基づいて検討を外注したが、エネルギー固有値が大きくなるにつれ誤差が大きくなる傾向があり、また、縮退している波動関数を全て求めることが立方晶のみでしかできない程度に留まり、分析への応用に耐えられるレベルに進展できなかった。断熱ポテンシャルは、水素の原子位置を空間対称性において既約な等間隔メッシュ点に置いて求めた。通常の前者の解法により、任意の系に置いて、水素の振動スペクトルのエネルギー及び運動量移行依存を求められるようになった。 この作成した方法を用いて、いくつかの既報の実験スペクトルのピークエネルギーを約10%の誤差の範囲で求められることが示された。これに基づき、LaNi5Hxの不明なエネルギーピークを説明するモデル原子配列を探索し、ピークの結晶方位依存からも矛盾しないモデル原子配列を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
非調和効果が無視できない水素の中性子振動スペクトルについて、第一原理計算に基づいて解析する方法を作成し、問題なく実際のいくつかの系の解析に適用できたことについては進展があったが、この作成した方法をさらに踏み込んで実験計画を立て、実施することがR5年度の目標であるものの、実施するには試料の策定も不十分であり、時間的に遅れている。まずは、これまでの成果を論文として世に出すことを優先すべき状況であることから、現在までの進捗状況はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに作成した理論計算方法とその適用例を論文にまとめる。その際、外注したFDTD法についても精査する。その上で、理論計算で予測した水素の中性子振動スペクトルの運動量移行依存性の実験的可視化を試みる。
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Causes of Carryover |
前年度までの実施状況から当初はR4年度に計算機の導入を予定していたが、計算手法開発を重点的に行うため、水素原子核のシュレディンガー方程式解を既存のプログラムコードを変更し計算できるようにする調査を外注するための費用として使用した。自身で作成したフーリエ変換による解法がより有力であり、手持ちの計算機資源において現在の研究対象の計算は実施できることがわかった。また円安や半導体不足もあり、R4年度の計算機導入は見送ることとしたため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、本研究で開発した手法や適用例を論文としてまとめ、オープンアクセス化する費用及び研究とりまとめに必要な計算機の購入に使用予定である。
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