2022 Fiscal Year Research-status Report
薄膜でのみ出現する新Ni酸化物超伝導のバルク体での実現
Project/Area Number |
21K04638
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
上原 政智 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (60323929)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 高温超伝導 / Ni酸化物 / ドーピング / 層状化合物 / 高温超伝導候補物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はPr4Ni3O8及び(Ln,A)NiO2 (Ln=Nd,Pr, A=Sr,Ca)バルク体において高温超伝導を実現する事である。(Ln,A)NiO2は薄膜でのみ超伝導が発現する事が報告されているがバルク体で超伝導を実現できれば研究が飛躍的に進展し高温超伝導体と詳細に比較する事で高温超伝導機構の解明、更なる高Tc化の指針を得る事に大きく寄与する。 Pr4Ni3O8 超伝導化には適切なキャリア量調整が必要である。2つあるNiサイトの一方のみへの選択的元素置換によるキャリア量調整を試みた。本年度はTi,Crをドープした。KEK-PFにて行ったX線吸収微細構造(XAFS)実験の結果、それぞれTi4+,Cr3+として存在することが確かめられた。電気抵抗は金属的だが超伝導は確認されていない。次年度は引き続き新たなドーパントの探索を行うほか、ゼーベック係数の測定からキャリア量の変化を検証する。Niサイト元素置換では、2つあるNiサイトのうち一方のみを元素置換して、伝導面であるNiO2面をクリーンに保つことが望ましい。これを検証するためにJ-PARCにて粉末中性子回折(NPD)実験を行った。現在は実験で得たデータの解析中である。 (Ln,A)NiO2 本系が薄膜でしか超伝導を示さない原因として、バルク体ではNiO2面間に余剰酸素が残留しているためと推測している。今年度は(Ln,A)NiO2の組成においてLn=Pr~Gdまでの一連の物質を合成した。Lnのイオン半径が小さくなるにつれ(Ln,A)NiO2合成に必要な還元アニール温度が低く出来ることが分かった。これは面間の酸素が脱離しやすくなっていると考えられ、Lnのイオン半径の小さい試料では、より残留酸素を除去しやすいことを意味している。次年度以降はこれら試料に対し独自のS処理の手法や合成条件の最適化により超伝導が発現するかを検証していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年次目標<Pr4Ni3O8におけるNi 3d 形式電子数最適化による超伝導発現> 2つあるNiサイトの一方のみへの選択的元素置換によるキャリア量調整を試みた。選択的置換を目指す理由は一方のNiO2面をクリーンな状態で残し超伝導発現に有利な状況とするためである。NiサイトにTi, CrをドープしたPr4Ni3-xMxO8(M=Ti, Cr)をTiはx=0.2、Crはx=0.3まで合成することが出来た。しかし、これらの試料は2 Kまでの磁化測定で超伝導は示さなかった。またこれらの試料のXAFS実験の結果、それぞれTi4+,Cr3+として存在することが確かめられた。この価数を基にNiの形式価数を計算すると超伝導を示してもよい状態になっている。超伝導の示さない理由として2つあるNiサイトをランダムに占有している可能性がある。置換サイトを確認するためにJ-PARCにて粉末中性子回折(NPD)実験を行った。現在は実験で得たデータの解析中である。
年次目標<(Nd,Sr)NiO2バルク体の超伝導化> 本系が薄膜でしか超伝導を示さない原因として、バルク体ではNiO2面間に余剰酸素が残留しているためと推測している。今年度は(Ln,A)NiO2の組成においてLn=Pr~Gdまでの一連の物質を合成した。Lnのイオン半径が小さくなるにつれ(Ln,A)NiO2合成に必要な還元アニール温度が低く出来ることが分かった。これは面間の酸素が脱離しやすくなっていると考えられ、Lnのイオン半径の小さい試料では、より残留酸素を除去しやすいことを意味している。これは当初予想していなかった新しい知見である。次年度以降はこれら試料に対し独自のS処理の手法や合成条件の最適化により超伝導が発現するかを検証していく。 以上のように今年度計画した一連のプロセスを滞りなく行えたことから「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
Pr4Ni3O8 Pr4Ni3-xMxO8 (M=Ti, Cr)についてXAFSの結果によると、Ti, Crはそれぞれ4価、3価であることが分かった。これを基に形式的なNiの価数を考えると超伝導化に必要なキャリア量に達している。それにも関わらず超伝導を示さない。これはドーパントが選択的に一方のNiサイトを占有しているのではなくランダムに置換されていることを示唆している。まずは置換サイトの確認が必要で、J-PARCにて行ったNPD実験の解析が急務である。もしランダム置換が確認されれば選択的置換を実現するような合成方法の検討が必要となる。選択的に一方のサイトを置換している状態は熱力学的安定相だと考えられるので、それが実現するように焼成時の徐冷時間をゆっくり行うなどが考えられる。また別のドーパントを使うことも検討する。4d, 5d遷移金属元素などが候補となる。
(Ln,A)NiO2 (Ln=Pr,Nd, A=Ca,Sr) 【現在までの進捗状況】で述べたように、今年度は(Ln,A)NiO2の組成においてLn=Pr~Gdまでの一連の物質を合成し、Lnのイオン半径が小さくなるにつれ(Ln,A)NiO2合成に必要な還元アニール温度が低く出来ることが分かった。これは面間の酸素が脱離しやすくなっていると考えられ、Lnのイオン半径の小さい試料では、より残留酸素を除去しやすいことを意味している。これは当初予想していなかった新しい知見であり今後は特にLnのイオン半径の小さい試料に対し独自のS処理の手法や合成条件の最適化により超伝導が発現するかを検証していく予定である。X線では酸素を見ることが困難であるが、放射光を使った精密構造解析により間接的に余剰酸素の有無を確かめたい。またXAFSやNPD実験により試料のキャラクタリゼーションを行い、合成の最適化へのフィードバックとする。
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Causes of Carryover |
予定していた出張実験が諸事情により中止となり旅費の支出の必要がなくなったため。 この余剰金は、余裕をもった原料試薬や実験消耗費の購入に充てる。
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