2021 Fiscal Year Research-status Report
レーザードーピングで形成される不純物ドープ層を利用した水素ガスバリア機能の開発
Project/Area Number |
21K04662
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
信太 祐二 北海道大学, 工学研究院, 助教 (80446450)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 水素ガスバリア / 水素透過 / レーザードーピング / ステンレス鋼 |
Outline of Annual Research Achievements |
水素の利用が広まる中で,水素容器からの水素の漏れ(透過)を防ぐ水素ガスバリア機能の重要性が高まっている。既存技術として水素透過の小さな薄膜を容器にコーティングする方法が主流になっているが,これにはクラックや剥離などの潜在的な弱点が存在する。本研究では,炭素や窒素などの不純物を表層に添加(ドープ)することにより水素の透過を抑制する新しい水素ガスバリア機能強化法の確立を目標としている。具体的な内容として,ガスバリア機能が最も向上するドープ条件と透過が抑制されるメカニズムの解明を目指す。本手法はコーティングとは違い金属表面そのもののガスバリア機能を向上させるためクラックや剥離などの問題を克服でき,コーティングができないような金属にも応用できると考えられる。 初年度はまず,レーザードーピングしたステンレス鋼表面の水素吸収特性を調べた。エタノール中にステンレス鋼試料を浸した状態でレーザー照射することにより炭素や酸素をドープした後,三重水素ガスに高温で曝露し,ドープ層の三重水素吸収量をイメージングプレート法で評価した。三重水素の検出深さは表面近傍に限られるため,ドープ層の水素吸収特性を調べるのに適している。レーザーフルエンスを0.2-1.4J/cm2で変化させた場合,0.5J/cm2の場合にもっとも三重水素吸収量が少なくなった。また,1.4J/cm2の場合はドープしていない場合とほとんど変わらず,またレーザー照射面がかなり損耗されていることがわかった。0.5J/cm2のフルエンスで照射時間を変化させたところ,照射時間が長くなるにつれてドープ効果が小さくなる傾向がみられた。これらから,ドープ層の水素吸収を低減させるレーザー照射条件をほぼ明らかにすることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り,不純物レーザードーピングしたステンレス鋼表層の水素吸収特性を評価した。この分析では軽水素や重水素ではなく三重水素を使うことで効率的かつ精度のよい測定を行うことができた。また,レーザー照射後の表面形態観察からレーザー照射による損耗の度合いも評価できた。これらの結果は今後行う重水素透過測定用の試料作成に役立てることができる。さらに,重水素透過測定を行う装置をあらたに構築し,透過した重水素を問題なく検出できることを確認した。 以上から、おおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
不純物ドープしたステンレス鋼試料の重水素透過測定を真空下で行う。真空チャンバ内にバックグラウンドとして存在する軽水素ではなく重水素を使用することで透過の測定精度を高めることができる。ドーピングにより水素透過がなぜ抑制されるのか,そのメカニズムとして,ドープした不純物そのものによる水素の強い捕捉,ドープ元素の偏析や析出による粒界拡散の抑制,格子間に存在するドーパント原子が作る圧縮場による拡散の抑制,などが考えられる。これらを検証するためミクロな視点からドープ層の素性を調べる。ドーパント濃度および化学結合状態,ドーピング後の結晶構造および欠陥構造,捕捉された重水素の熱的安定性,等を評価する。
|
Causes of Carryover |
初年度は不純物ドープしたステンレス鋼表面の水素(三重水素)吸収特性の評価を中心に行ったため,重水素透過装置で使用する検出器の購入を次年度に見送ることにした。また,透過測定装置の構築にあたり研究室に既存の備品を流用・共有することで購入物品を減らすことができた。初年度の残額は高感度の重水素検出器や重水素ボンベなどの購入,分析機器の使用料などに使用する予定である。
|