2021 Fiscal Year Research-status Report
2位置換ピリジン類を基本骨格とする擬態分子構造を用いた新たな接着原理の構築
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21K04670
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Research Institution | Fukui National College of Technology |
Principal Investigator |
古谷 昌大 福井工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (30737028)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 接着 / 擬態分子構造 / アクリラート / 再結晶 / 有機溶媒フリー / 異種材 / 極性 / ラジカルUV硬化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度である令和3年度においては,接着材料の主要構成要素であるモノマーの合成に取り組んだ.周囲の環境に応じて化学構造を変化させ相互作用を最大化させる「擬態分子構造」として,2,2’-ジピリジルジスルフィド基および2-ヒドロキシピリジル基を選択した.これらの構造を分子内に有するアクリラートモノマーの合成を行なった.その結果,2,2’-ジピリジルジスルフィド基を分子内に有するジアクリラートモノマーの合成に成功した.同モノマーは再結晶操作により精製できる特徴を持つことがわかった.これは,煩雑な精製操作を伴わず簡便に目的物が得られることを意味しており,今後工業的に応用展開する際の利点になると考える.同モノマーと単官能末端ヒドロキシアクリラートモノマーおよび光ラジカル開始剤を用いて,有機溶媒フリーの光接着材料を作製した.波長365 nmのUV光(照度:3.7 mW/cm2)を1 J/cm2だけ照射することで,ガラス(または銅,アルミニウム,ステンレス,ポリ塩化ビニル,ポリプロピレン)とガラスの異種材光接着(最大せん断応力:約1.4 MPa,ガラス-ステンレス接着試料)を実現した.UV光照射中におけるラジカルUV硬化反応の進行をFT-IRスペクトル測定により確認した.同モノマーを使用しない対照実験を併せて行ない,極性が比較的高い基板どうしの接着において,同モノマーの添加効果(接着強度の向上)を確認した.さらに,接着層と同一組成でUV硬化膜を作製し,同膜表面の水の接触角変化の経時変化を測定した.その結果,同モノマーを含むUV硬化膜の方が接触角の変化幅が大きくなった.このことから,同モノマー構造中に含まれる2,2’-ジピリジルジスルフィド基が膜表面の親水化に関与していることが示唆された.すなわち,接する基板などの極性に応じて自身の極性を変化させられる接着材料を作製できたと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の第1段階であるモノマー合成では,「擬態分子構造」として2,2’-ジピリジルジスルフィド基と2-ヒドロキシピリジル基の2つを選択し,それぞれ合成に取り組んだ.このうち,前者について分子設計をする際に,リンカーの長さ(「擬態分子構造」と重合性官能基の間のメチレン基の数)を2~4炭素数で検討した.結果的に,炭素数が4個のとき精製目的物を得ることができた.後者については精製目的物を得るには至らなかった.その他の「擬態分子構造」を持つモノマーの合成は未着手となった.しかし,それらを今後進めるための合成手法や出発原料については準備,調達できた.当初の計画では1種類でもモノマーが得られ次第,第2段階として接着シートを作製することになっていたが,最終的な応用先である異種材接着材料としての性能を大まかに確かめるため,第3段階である接着試験を前倒しで行なった.その結果,本接着材料のある程度の万能性を確認できた.同材料はジスルフィド結合を含有するため熱解体性があることも期待し予備的実験を行なったが,そのような性能は認められなかった.初年度の一連の接着試験を通して,接着対象(被着体)として用いる材料の選定はほぼ完了し,次年度以降に活用することとした.さらに,接着層における分子状態を調べるために接触角計を購入した.2,2’-ジピリジルジスルフィド基を含むUV硬化膜を接着材料と同一組成で作製し,これを用いた水の接触角の経時変化測定を行なった.これより,対照実験と比較して有意な結果を得ることができた.分子状態は多角的に調べる必要があり,今後は走査型電子顕微鏡やX線光電子分光測定も検討している.これらの測定には至っていないが,使用手続き方法の確認は行なった.以上のように,本研究課題の項目によっては遅れている部分もあるが,総合的には,概ね良好な進捗状況であると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は3つの項目から構成される.第1の項目である『含「擬態分子構造」モノマーの合成』では,初年度得られた2,2’-ジピリジルジスルフィド基を含むモノマー以外のものについて,精製目的物を得ることを目指す.初年度にモノマー分子構造中への導入を試みた2-ヒドロキシピリジル基については,合成中に重合性官能基と副反応を起こしていることを示唆する結果が得られたことを受け,別の重合性官能基との組み合わせを検討する. 第2の項目である『接着シートの作製』では,2,2’-ジピリジルジスルフィド基を含むモノマーと市販の単官能および2官能モノマーとを組み合わせ作製を検討する.また,他の含「擬態分子構造」モノマーが合成でき次第,同様にシート作製を検討する.シートの力学特性として脆性を持つことは避けたいが,まずは自立膜作製そのものの達成に向けて研究を進める. 第3の項目である『接着・解体試験と分子状態調査』では,初年度に得た実験上のノウハウを活かしデータを蓄積していく予定である.どの「擬態分子構造」を用いても接着材料への熱解体性の付与は可能であると考えている.性能付与を実現するために,含「擬態分子構造」モノマーの組成を高めた状態での接着層の形成を試みる.また,2年目にあたる今年度中に,いずれかの接着材料について走査型電子顕微鏡による破断面表面の観察とX線光電子分光測定によるヘテロ原子(硫黄原子,窒素原子,および酸素原子)の化学状態分析を実施し,接着原理についての考察を深める.
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