2022 Fiscal Year Research-status Report
アンカー型機能性分散剤によるカーボンナノチューブの分散,配向制御
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21K04682
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
川本 益揮 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (70391927)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / 非共有結合機能化 / 分散 / 複合化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,アンカー型分散剤の分子構造と単層カーボンナノチューブ (SWCNT) の直径選択性との相関関係と,分散剤の構造がナノチューブの分散安定性に及ぼす影響を明らかにした。 分散剤の分子構造とナノチューブの選択性については,フォトルミネッセンス励起スペクトル測定より,分散によって選別した SWCNT のキラリティ (n,m) を同定した。その結果,(9,4),(7,6) SWCNT が選別したナノチューブの 90 % を占め,これらのナノチューブの直径はおよそ 0.9 nm であった。また SWCNT の直径と roll-up angle との関係を調べたところ,アンカー型分散剤はナノチューブの直径を認識し分散に寄与することがわかった。 分散剤の構造がナノチューブの分散安定性に及ぼす影響については,分子動力学シミュレーションを用いて考察した。分散剤と SWCNT 間の自由エネルギーの最小値は0.65 nm付近で,2.0 nm 以上の距離ではほぼ一定となった。つまり,分散剤は 0.65 nm付近で最も強く SWCNT と結合し,2.0 nm 以上では空間的に分離していることがわかった。また,2.0 nmでの自由エネルギー値と 0.65 nmでの自由エネルギー値との差を結合自由エネルギー(ΔG) とし,アンカー型分散剤と異なるキラリティの SWCNT との ΔG を比較した。良好な認識を示す (9,4) SWCNT (直径: 0.92 nm) のΔG 値は 171 kJ/mol であるのに対し,ほぼ認識しない (8,6) SWCNT (直径: 0.97 nm) のΔG値は 84 kJ/mol であった。以上の結果より,大きな ΔG の差をもたらしたのは,アンカー型分散剤が SWCNT の直径に対して鋭敏な認識を示すためと考えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アンカー型分散剤のカーボンナノチューブに対する直径選択分散のメカニズムを明らかにすることができた。この結果は,カーボンナノチューブの分散についての新たな知見を得ただけでなく,ナノチューブの配向を誘起するアンカー型分散剤の分子設計指針を提示するものである。 今年度は材料の機能探索の過程で,白金ナノ粒子を担持可能なカーボンナノチューブ分散剤の合成に成功した。この分散剤は側鎖にチオール基を有する高分子化合物であり,カーボンナノチューブを水中で分散することが可能であった。この水分散液中で in situ 合成した白金ナノ粒子は,ナノチューブの表面に非共有結合機能化によって吸着した高分子分散剤のチオール基と白金ー硫黄結合で化学的に担持した。白金ナノ粒子を担持したカーボンナノチューブ水分散液はスプレーコートによる成膜化が可能であり,水電解水素発生電極触媒として機能することがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
アンカー型分散剤を用いたカーボンナノチューブの分散と配向を検討する。具体的には,塗布によって成膜したナノチューブフィルムの光学的異方性を偏光顕微鏡観察より評価する。カーボンナノチューブが異方的な配向を示す場合,配向方向に平行,あるいは垂直方向に対する電気伝導度を測定し,ナノチューブの配向に伴う導電異方性を明らかにする。 白金ナノ粒子を担持したカーボンナノチューブからなる電極触媒の水電解水素発生挙動については引き続き検討を行う。ナノ粒子を担持したカーボンナノチューブのモルフォロジーが水素発生反応におよぼす影響や,ナノ粒子の担持量と水素発生効率との関係などを検討し,水素発生電極触媒としての機能性を検証する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で出張や学会への参加を見送るケースがあったため次年度使用額を生じた。 カーボンナノチューブの配向性を検討する予算に当てる。また,課題遂行中に新しい知見を得た水電解水素発生電極触媒の研究を推進するための装置の購入を進める。
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Research Products
(4 results)