2022 Fiscal Year Research-status Report
電池材料再資源化と鉄鋼脱リン効率化に向けた熱力学~リン酸の安定性は制御可能か?
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21K04737
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
長谷川 将克 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (40335203)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | リン酸 / 電池材料 / 再資源化 / 鉄鋼プロセス |
Outline of Annual Research Achievements |
リンは鉄鋼の不純物として除去される一方、肥料や電池材料として再資源化が期待される元素である。鉄鋼精錬スラグは塩基性酸化物-酸性酸化物-FeO系であるが、リチウムイオン電池正極材料LiFePO4も同様の塩基性酸化物Li2O-酸性酸化物P2O5-FeO系と言える。リン酸の分離と安定化の制御を目的に、テーマ1「電池材料リサイクルに向けたリン酸の分離」、テーマ2「LiFePO4リサイクルに係る熱力学データベースの構築」、テーマ3「精錬スラグ中のリン酸の安定化」、テーマ4「リン酸を含有する酸化物相の溶体モデルの構築」に取り組んでいる。 テーマ1では、LiFePO4に添加物を混合して加熱し、生成物を水に溶解してLiの回収率を測定・比較した。LiFePO4にK2CO3とCをモル比1:1:1で添加してAr雰囲気で1173Kに加熱すると、Feを還元分離できた。生成物はリン酸塩(K,Li)3PO4と考えられ、水への溶解度を考慮すると、Li回収率は59%まで向上した(前年度最高値は24%)。 テーマ2はLi回収反応の解析に必要な熱力学データの測定を目的とする。液体合金としてSn-P系を考え、P2O5活量が既知の酸化物相と共存させてPの活量係数を求めた。 テーマ3では、Ca2SiO4-Ca3P2O8固溶体中のFeO活量を測定した(前年度はP2O5活量)。H2/H2O分圧比が一定の条件下で酸化物相と液体Cu-Fe合金を平衡させ、合金中のFe濃度からFeO活量を算出した。CaSiO3と共存する固溶体へのFeO溶解度は大きいが、活量はCaO共存時より大きく低下した。 テーマ4では、FeOが溶解したCa2SiO4-Ca3P2O8固溶体に対する溶体モデルを作成した。(SiO4)4-と(PO4)3-のアニオン同士、Ca2+とFe2+のカチオン同士が置換し合うと考え、本モデルによりテーマ3の測定値を再現できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では素材生産・リサイクルに関連する高温乾式プロセスのうち、リン酸の分離性/安定性の制御による電池材料LiFePO4の再資源化と鉄鋼脱リンの効率化について、研究実績の概要で述べた4つのテーマについて研究を行っている。 テーマ1「電池材料リサイクルに向けたリン酸の分離」では、LiFePO4への添加物や加熱条件を変更した乾式処理を行い、生成物を水へ溶解した際のLi回収率を比較した。また水への溶解度測定に向け、種々のアルカリ金属リン酸塩の合成を行った。反応生成物の水への溶解度を考慮することにより、Li回収率を59%まで向上させることができた。今後はさらなる回収率の向上を目指して、生成させるべきリン酸塩を選択したい。 テーマ2「LiFePO4リサイクルに係る熱力学データベースの構築」では、リン酸塩のGibbsエネルギー測定に用いる参照金属として低融点のSnに着目し、Pの活量係数を起電力法とガス平衡法で測定した。 テーマ3「精錬スラグ中のリン酸の安定化」では、今年度はCa2SiO4-Ca3P2O8固溶体中のFeO活量を測定した。また固溶体へのFeO溶解により、P2O5活量は低下する傾向が見られた。本研究成果を基に、スラグ中のリン酸塩の熱力学的考察について日本無機リン化学誌への解説記事を執筆した。 テーマ4「リン酸を含有する酸化物相の溶体モデルの構築」では、Caの一部がFeで置換したCa2SiO4-Ca3P2O8固溶体に対する溶体モデルを構築し、固溶体中のFeO活量-FeO溶解度の関係およびCaO-(SiO2+P2O5)-FeO擬三元系での相平衡を熱力学的に説明することに成功した。本成果は学会発表ならびに論文投稿を行った(令和5年4月掲載)また、科研費24510098(基盤C)で得られていた測定データにも考え方を応用して再解析を行い、その成果も論文投稿した(令和5年7月掲載決定)。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度である令和5年度は、全4テーマの測定・解析を進め、鉄鋼精錬スラグと電池材料リサイクルの双方でリン酸の分離と安定化に関する知見をまとめる。また積極的に学会発表や論文投稿を行う予定である。 テーマ1では、Liを含む様々なアルカリ金属リン酸塩の水への溶解度を測定し、Li回収に最適なリン酸塩を検討する。これまで炭素によりLiFePO4中のFeを還元分離することでLi回収率の向上に成功したが、脱炭素・カーボンニュートラルを考慮した他の還元剤(水素や有機系廃棄物など)の検討も行う。また本テーマでの結果を精錬スラグからのP資源回収にも応用したいと考えている。 テーマ2では、LiFePO4と添加物との反応を最適化することを目的に、その解析に必要な熱力学データを測定する。テーマ3の実験手法を応用したガス平衡法、あるいはジルコニア固体電解質を応用した起電力法により酸素分圧を制御/測定し、リン酸塩と液体合金を平衡させる方法を用いて、種々のリン酸塩中のP2O5活量を測定する。液体合金としてはSn-P系に加え、Cu-Ag-P系などを検討する予定である。テーマ3の結果と合わせ、P2O5活量を低下させて反応を進行させる熱力学的条件(酸素分圧や添加剤)について考察する。 テーマ3では、Ca2SiO4-Ca3P2O8固溶体中のCa2+の一部がFe2+に置換したときのP2O5活量の変化を調査する。固溶体へのFeO溶解でP2O5活量は低下する傾向が見られているが、測定値の熱力学的解析を通じてリン酸塩の安定性について整理したい。 テーマ4では、Ca2SiO4-Ca3P2O8固溶体に対する溶体モデルの改良を行う。 (SiO4)4-と(PO4)3-のアニオン間、Ca2+とFe2+のカチオン間の相互作用に加え、アニオン-カチオン間の相互作用を考慮することにより、テーマ3での成分活量の定式化を試みる。
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Causes of Carryover |
発注済の消耗品(ベースレスポンプ等)が在庫不足により納品が遅れて次年度での決済になったこと、適切な混合ガスの使用により設備備品費(ガス流量調整器)が発生しなかったこと、実験装置レンタル料が抑えられたこと、学会への参加に事前登録が必要であったために参加人数が予定より減少して旅費が抑えられたこと、により次年度使用額が生じた。直近では消耗品やガスの価格が上昇しており、研究課題最終年度である令和5年度は次年度使用額も含めて研究費を有効に活用し、計画通りに研究を推進、また学会での発表や論文の投稿を行っていきたいと考えている。
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