2022 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of physicochemical behavior between metal particles and cells in culture medium and development of sustained-release control method
Project/Area Number |
21K04759
|
Research Institution | Osaka Metropolitan University College of Technology |
Principal Investigator |
倉橋 健介 大阪公立大学工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (60516821)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齊藤 丈靖 大阪公立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70274503)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ナノ粒子 / 表面修飾 / 溶解性制御 / 養液栽培 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属酸化物としてZnより植物要求量の多いMgに着目し、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を用いたゾルゲル法で粒径100 nmのMgO粒子にシリカコーティングを施すことで凝集性・溶解性の制御を試みた。 コーティングMgOナノ粒子の水への溶解速度を測定したところ、反応前のMgOより最大溶出速度は25%減少し、亜鉛同様の合成法でナノ粒子の溶解性を調整できることがわかった。得られたコーティングMgOナノ粒子を緑藻類であるクラミドモナスへ投与したところ、Mgを水溶性の塩で投与した場合や、コーティングなしのMgOナノ粒子を暴露した場合より、コーティング粒子を暴露した場合に細胞数がより増加した。この細胞数の増加は、緑藻だけでなく褐虫藻に対してコーティングMgO粒子を投与した際にも見られた。投与後の細胞表面のMg量を測定したところ、コーティングMgO粒子で最も多くなった。これは、MgO粒子表面の電荷がコーティングで減少することで細胞表面により凝集しやすくなったためと考えられる。また、細胞内へのMg吸収量もコーティングMgO粒子で最も多くなった。以上の結果から、MgOナノ粒子の凝集性および溶解性を制御することで、広範な植物細胞の成長を制御できる可能性が見出された。 上記の実験と並行して、水溶性塩であるZnCl2に対してポリエチレングリコール(PEG)を混合し、粒子をPEGでコーティングすることで低溶解性を付与したZn粒子を調製し、クラミドモナスへの投与試験を行ったところ、PEGコーティングを行ったZn粒子でも細胞数の増加が観察された。これは、PEGでも溶解性制御が可能であることを示すと同時に、ZnCl2のような水溶性塩であっても徐放性を付与して投与可能であることを意味しており、窒素・リン酸・カリウムといった植物細胞にとってより重要な水溶性栄養成分へ本手法を転用できる可能性を示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、金属ナノ粒子の局所的な凝集・溶解挙動を理解することで、植物細胞への吸収速度を制御できる徐放性ナノ粒子を造粒することである。 酸化亜鉛ナノ粒子に対する検討を行った初年度に引き続き、令和4年度は酸化マグネシウム(MgO)に対して表面修飾による溶解度制御を試みた。その結果、MgOナノ粒子に対してもシリカコーティングによって溶解速度の制御が可能であり、緑藻類であるクラミドモナスの投与において成長促進が同様に起こることを見出した。得られた結果は、細胞表面及び細胞内部のマグネシウム量を測定することで物質収支を解析し、コーティングナノ粒子を投与した際の吸収メカニズムのモデル化が可能である体制を確立した。 また、調製したコーティングMgOナノ粒子は褐虫藻へ投与した際も同様に細胞数を増加させることがわかった。このことから、溶解性を制御したナノ粒子による植物細胞の成長制御がクラミドモナスに特異的なものではなく、広範な植物細胞へ適用可能であることが見出された。 最後に、水に対して高溶解性の塩である塩化亜鉛の除法性粒子化に挑戦した。その結果、高分子であるPEGを塩と攪拌混合し、PEG被膜をコーティングした塩化亜鉛粒子を造立することに成功し、クラミドモナスへ投与した際に同様に細胞数を増加させることができた。これは本研究を、リン酸やカリウムといった植物成長に必須かつ水に高溶解性粒子を除法性粒子とし、肥料として投与する農業技法の開発へと発展できる可能性を示唆している。 以上の検討により、金属ナノ粒子による植物細胞へのミネラル吸収の一般化と発展が見られたことから、本研究課題はおおむね順調に進捗している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の令和5年度における目標は「除法性ナノ粒子による金属取り込み速度制御のプロトコルを確立する」である。この達成のために以下の検討を行う。 まず、令和4年度までに確立した除法性粒子合成の手法を、植物に吸収させる栄養成分と粒子化する化学種の二側面から適用拡大する。特に、植物成長の三要素である窒素・リン酸・カリウムについては除法性粒子化のメリットが大きいことから、PEG・シリカコーティング以外の被膜合成手法も含め粒子化を検討する。試作粒子については植物細胞へ投与し、細胞数の変化から、植物への影響を検討する。比較に際しては、逐次抽出法によって、細胞部位ごとのミネラル吸収量を測定し、細胞へのミネラル吸収の時間変化を追跡するとともに、フローサイトメトリーを用いた解析を併用することで、植物細胞へのナノ粒子の凝集を定量化し、ナノ粒子から細胞内へ金属が吸収される際の正確な物質収支モデルを構築する。 また、ミネラルナノ粒子については堆肥などの有機質肥料とともに土壌へ散布した場合にも、栽培植物の成長を促進することが探索的研究によりわかっている。そこで、イオン交換樹脂を土壌粒子のモデル物質とし、ミネラルナノ粒子を混合させた場合のミネラルの溶出挙動を長期にわたって測定することで、土壌環境中でのミネラルの溶出・吸収挙動をモデル化するとともに、実土壌での栽培実験と比較することで、吸収メカニズムの解析と散布時のプロトコル作成を試みる。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の蔓延に対する対策が継続され、発表予定の学術会議がオンライン開催となったことや、共同研究者との打ち合わせを遠隔会議としたことで、当初の予定よりも旅費への支出が減少し、次年度使用額が発生した。 次年度については、新型コロナウイルス感染症対策の緩和により、学術会議の開催が現地開催中心となることが予想されることから、成果発表に注力するための旅費に使用することを検討している。また、フローサイトメーターなど学外の共同利用機器の利用料と、現地までの旅費に使用することも検討している。
|
Research Products
(4 results)