2021 Fiscal Year Research-status Report
Simultaneous organic matter synthesis and absorbent regeneration by hydrothermal treatment of alkali bicarbonate as a CO2 absorbent
Project/Area Number |
21K04768
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
高橋 伸英 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (40377651)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 二酸化炭素回収利用 / CO2からの有機物合成 / 水熱処理 / 炭酸アルカリ吸収液 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アルカリ炭酸塩水溶液を用いたCO2の化学吸収法において、CO2を吸収した吸収液を高温高圧下で水熱処理することによりギ酸などの有機化合物へ変換し、同時に吸収液を再生し再びCO2吸収に利用する、CO2吸収と有機物合成を一体化したプロセスを提案する。 ステンレス反応管に、CO2源としてKHCO3、還元剤としてFe粉末、触媒としてCu粉末、溶媒として蒸留水を封入し、予熱したサンドバス中に反応管を浸漬し加熱した。反応時間を120分とし、反応温度を250~325 ℃で変化させた。原料転換率とギ酸収率は反応温度に伴い増加する傾向が見られ、325 ℃でそれぞれ最高の44 %、11 %となった。吸収液の再生率は温度によらず約20 %でほぼ一定であった。325 ℃までの範囲においてはより高温の方が提案プロセスに適していると考えられる。また、反応温度を300℃とし、反応時間を15~150分間で変化させた結果、原料転換率は15分ですでに40 %と高く、その後は反応時間とともに徐々に増加した。ギ酸収率は反応時間の増加に伴って増加し、最大は150分の13%であった。ギ酸は液中において二酸化炭素、または、重炭酸イオンと水素との反応により生成されると予想されるが、高温下ではH2の水への溶解度は小さいため、この反応が全体の律速過程となっていると推測される。再生率は30分以降20 %でほぼ一定であった。 また、CO2源としてKHCO3水溶液、還元剤としてFe粉末、触媒としてNi粉末を用い、炭素源、還元剤、触媒のモル比を一定にしつつKHCO3水溶液の濃度を0.5~2.0 Mに変化させた。その結果、KHCO3濃度が1.0 Mで300℃、2時間の加熱により、32.7 %のギ酸収率と77.8 %の吸収液再生率が得られた。これらの結果により、ギ酸生成と吸収液再生を高い収率と再生率で同時に行えることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重炭酸イオンを炭素源とし、触媒と還元剤として金属粒子を用い、水熱条件下でのギ酸生成に対する反応温度、反応時間、および、炭素源濃度の影響を明らかにした。その結果に基づき、ギ酸収率を高めるための条件が明らかになった。また、吸収液の再生率が80%程度と高い値を達成できる条件も明らかになった。さらに、実験結果に基づき、反応のメカニズムに関する考察がなされ、律速過程も特定されつつある。これらの結果から、CO2を吸収した炭酸アルカリ吸収液を水熱処理することにより、ギ酸を生成しつつ、同時に吸収液を再生するという本研究の提案の実現可能性が示された。 ただし、重炭酸イオンが解離し二酸化酸素を放出し、炭酸イオンを再生する反応は、開放系では温度の上昇とともに速やかに進行するが、閉鎖系の水熱条件下では、高温において反応管内が高圧になることにより、解離反応が進行しない。そのため、炭酸アルカリへの再生率は、反応温度や反応時間によりほとんど影響を受けず、これらの条件を変えても再生率を向上することができないことも明らかとなった。また、ギ酸生成の反応経路として、解離された二酸化炭素が水中で水素と反応する経路と、重炭酸イオンが直接水素と反応する経路が考えられるが、後者の反応経路が進行すると、炭酸イオンとして再生される量が少なくなるため、吸収液の再生率は100%に到達することが不可能になる。このように、CO2を吸収した重炭酸アルカリから有機物を合成しつつ100%吸収液を再生することが困難であることも明らかとなった。 このように、本提案プロセスの可能性と限界について明らかになったことを踏まえて、達成度はおおむね順調であるとした。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目は主な有機化合物としてギ酸を対象とし、ギ酸生成に対する反応条件の影響調査を行った。しかし、ギ酸は、主に防腐剤や抗菌剤としての利用、あるいは、燃料電池の燃料としての利用が想定されるが、用途は限定的である。また、水溶液中からの分離も容易ではない。一方で、メタノールは用途も広いため、利用価値が高い。そこで、今後はメタノールの収率を高める反応条件を探索する。既往の研究により、同様の水熱条件下で溶媒に塩酸水溶液を用いることによりメタノールを生成した報告があるが、高温高圧条件下で塩酸を使用することは装置の腐食を促進するとともに、反応生成物の取り出しの際にも注意を要する。そのため、塩酸を使用せずにメタノールを水熱条件下で生成する手法を探索する。 また、反応メカニズムの詳細を明らかにするためには、液中の生成物だけでなく、気相生成物の情報が不可欠である。これまでも気相生成物の回収を試みてきたが、バッチ反応管にガス回収部を取り付けると、取り付けなかった場合に比べて液中生成物の組成や収率が変わってしまう問題が生じた。そのため、ガス回収の有無が反応へ影響しないようなガス回収方法を検討する必要がある。気相生成物の組成、収率を明らかにした上で、反応経路を考察し、反応メカニズムを明らかにする。また、明らかにされた反応メカニズムに基づき、反応生成物収率を予測するための速度論モデルの構築に取り掛かる。 さらに、水から水素を生成し、自身が酸化された還元剤の金属の再生方法についても検討する。既往の研究では、酸化鉄とグリセリンを反応させ、金属鉄に還元するとともに、乳酸などの有価な有機物を生成する方法も提案されている。グリセリンは植物油からも得られるバイオマス由来物質の一種であるため、再生可能資源であるバイオマス由来物質を用いた還元剤の再生プロセスについて検討する。
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Causes of Carryover |
予定していた国際学会がコロナ禍のために延期になったため、その出張費と学会参加費を支出する必要がなくなった。また、国内学会もオンライン開催となったため、出張費を支出する必要がなくなった。加えて、論文を投稿するための論文校閲料および投稿料を計上していたが、実験結果の精査のために時間を要し、年度内に論文投稿することができなかったため、これらの費用を支出しなかった。さらに、機器の補修費を見込んでいたが、順調に作動したため、補修費を支出する必要がなかった。 繰り越した予算については、次年度はコロナ禍の行動制限が緩和され、学会出張も可能になる予想されるため、当初の予定通り、出張費として使用する。また、今年度投稿できなかった分も含めて論文投稿し、投稿料として使用する。また、今年度の実験において、液中や気相の生成物の分析のために大学の共通機器を使用し、その利用料金が予想より高額となった。次年度も同様の分析機器をさらに高頻度で使用することが予想されるため、その利用料金に充てる。さらに、ガス回収部を取り付けた際に液生成物の収率が低下することが判明したため、収率低下を防ぐための回収部の加熱装置の購入費用に充てる。
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