2021 Fiscal Year Research-status Report
培養温度制御に基づく真核細胞への遺伝子導入の効率化
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21K04789
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
勝田 知尚 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (50335460)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 遺伝子導入 / 真核細胞 / 昆虫細胞 / 微細藻類 / 生物化学工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,研究代表者らが緑藻の培養で見出した,培養温度を適切な範囲で周期的に変化させると培養液中の細胞間で細胞周期が同調するという知見に基づき,真核細胞の細胞周期を同調させることにより,核膜の消失から再構成の間にあわせて外来遺伝子を導入できるようにし,これによって外来遺伝子の核内移行,ならびに核DNAとの接触を促進させて,真核細胞への遺伝子導入の効率化を図ることを検討する. 令和3年度には,開放型の有糸分裂を行う昆虫細胞に注目し,培養温度をプログラム制御できるインキュベーターを用いて培養を行い,細胞周期が同調する温度制御条件の検討を行った.昆虫細胞には,組換えタンパク質の発現に広く利用されており,子宮頸がんワクチンの生産にも利用されているTrichoplusia ni BTI-TN-5B1-4 (High Five)細胞を用いた. はじめに,培養温度を最適よりも高温側で一定に保持して増殖挙動を調べた.High Five細胞は35℃までは最適温度である27℃のときと同等の増殖速度ならびに最高到達細胞密度を示した.しかし,37℃では増殖が顕著に抑制され,39℃では増殖しないことが分かった.培養液中のそれぞれの細胞の細胞周期をフローサイトメーターにより分析したところ,G2/M期にある細胞の全細胞数に対する割合が27℃の15-20%から37℃の30-40%まで,温度上昇に伴って増加することを見出した. そこで,培養温度は27℃と37℃を12 h周期で変化させることとし,High Five細胞の細胞周期の同調を試みた.しかし,植継ぎを行いながら6 dにわたって培養を継続したが,細胞周期が同調したときに見られる細胞密度の倍加は観察されなかった.High Five細胞では緑藻と同様にして細胞周期を同調させることは困難であることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度には,鱗翅目(チョウ目)の一種T. niに由来するHigh Five細胞に注目し,培養温度を12 h周期で変化させつつ培養を行い,細胞周期が同調する温度制御条件について検討を行った.このとき,今回導入したインキュベーションモニタリングシステムを用いることで,培養フラスコ底部に接着した細胞を剥離せず,3 hごとに細胞密度の測定を行い,増殖挙動を詳細に追跡することができるようになった. 最適培養温度よりも高温に対するHigh Five細胞の感受性は,緑藻と大きく異なっていることが分かった.緑藻の一種Haematococcus pluvialisでは,20℃と30.5℃を12 h周期で変化させつつ培養すると,3世代目にあたる培養3 dで高温に切り替えたときに細胞密度の倍加が観察された.しかし,High Five細胞では6 dにわたって培養を継続しても,こうした細胞密度の倍加は観察されなかった.フローサイトメーターによる細胞周期の分析より,この違いはH. pluvialisでは高温のとき細胞周期はG2/M期まで進んで止まるのに対して,High Five細胞では任意の期で止まることに起因すると考えられる.そこで,より強い負荷を与えるために高温時の培養温度を39℃とし,27℃との間で周期的に変化させる条件を試みたところ,植継ぎを行うたびに最高細胞密度が低下するとともに,細胞の形状にもひずみが生じた.以上の結果から,培養温度を最適とより高温の間で周期的に変化させて細胞周期を同調させることは,困難であることが分かった.そこで,より温和な条件を検討するために,最適とより低温の間で培養温度を周期的に変化させる条件を現在検討している.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は,T. niに由来するHigh Five細胞の細胞周期を同調させ,核膜の消失から再構成の間にあわせて外来遺伝子を導入することにより,安定トランスフェクションの効率化を図ることにある.このため本研究では,令和3年度に培養液中の細胞間で細胞周期を同調させるための温度制御条件を検討し,令和4年度にはマウス抗ウシribonuclease A抗体3A21由来の一本鎖抗体(scFv)とヒトIgG1のFcフラグメントとの融合タンパク質scFv-Fcを目的タンパク質として安定トランスフェクションを行い,その効率化を検討する計画である.令和3年度には,培養温度を最適との間で周期的に変化させるために好適な温度を,研究代表者らが緑藻の培養で見出したときと同様に高温側で検討した.37℃では細胞増殖は抑制されるものの,G2/M期にある細胞の割合が30-40%と低く,最適温度である27℃との間で12 h周期で変化させても細胞周期を同調させることはできなかった. そこで令和4年度には,はじめに培養温度を最適との間で周期的に変化させるために好適な温度を低温側で検討し,培養液中の細胞間で細胞周期が同調する温度制御条件を明らかにすることを目指す.このとき,G2/M期にある細胞の割合に不足があれば,細胞周期阻害剤の併用も試みる.細胞周期阻害剤にはデメコルシンやポドフィロトキシンなどのG2/M期で細胞周期を可逆的に停止させるものを用い,これらを一時的に培養液に添加することによって細胞周期の同調の促進を図る.その後,scFv-Fc遺伝子の安定トランスフェクションを行い,細胞周期を同調させた培養とさせなかった培養の間で目的タンパク質の生産性の比較・検討を行う予定である.
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